夏の丸

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 その日、僕はマンホールの中に逃げた。  冷房の効いた塾の中から外へ出ると、じっとりとした汗が肌を包んだ。夏期講習のせいでランドセルよりも重たくなったショルダーバッグを肩から下げて、目の前の大通りを右へ向かう。とぼとぼと、そんな比喩の音でさえも本当に聞こえてきそうな足取りは溜め息も出ないほどに重かった。帰りたくない。ジージーと鳴き続けるうるさいセミの音に、家で待つお母さんの規則正しい声が重なって耳を塞いだ。こめかみに落ちた汗が僕のことを笑う。ああ、どこかへ、逃げなくちゃ。
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