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外は相変わらず燃えるように暑い。いったいいつまで続くのか? 誰もがうんざりしている。暑いだけではない。今日も丸出は署へ遊びに来て、立川課長と雑談をしている。相変わらずコートの下は、白いランニングシャツにステテコ姿。
丸出のことを考えただけで、海老名はさらにうんざりとした気持ちが倍加する。あいつはただのバカじゃない。今回の事件で、かなり高度な情報収集力を持っていることがわかった。署長を狂気一歩手前の行動に駆り立てるほどの極秘情報を握って、ゴミと一緒にコートのポケットに入れていることが。あいつはいったい何者なんだろう? 何度も考えて来た疑問が、さらに重みを増して海老名の肩にのしかかる。
「エビさん、元気ありませんね。今日も二日酔いですか?」大森が隣の席から海老名に声をかけた。「もう事件も解決したことだし、そろそろ休暇でも取ったらどうですか?」
「そうだな、そうするか。俺も白馬へ行って、泥だらけの汚い雪でも見に行って来よう。ここで丸出のバカ面見るぐらいなら、一生休暇とってやる」
元気がないのは海老名だけではない。海老名の向かい側の席では、新田が大きくため息をついていた。
「あと5日か……」新田がそうつぶやいた。
「何があと5日なの?」海老名が聞く。
「私の誕生日……」
「そっか、新田さん、もうすぐ誕生日か。そんな暗い顔することないじゃん」
「だって、また1つ年をとるんだもん」
「確か今年で25になるんだろ? まだまだ若いじゃん。もっと本腰入れて男探せば、引く手あまただぜ」
「ま、20年ほど鯖読んでるけどね」と大森がつぶやいた。
「大森君、何か言った?」新田が怒って言う。
「あ、いや、誕生日のプレゼント、何にしようかなと思って……」
「プレゼントなんかいらないわよ。もう放っておいて」
「そんなこと言うなよ、新田さん」海老名が言う。「盛大に誕生日祝ってやるよ。ケーキにバースデーキャンドル挿してさ」
「バースデーキャンドルなんて、本当にやめて。今回の事件でもううんざり。ケーキもプレゼントもいらないから、私の誕生日のことなんか、もう忘れて」
そこへ丸出までやって来た。
「やあ、おばさん、もうすぐ45歳の誕生日ですな」
「どうしてあんたまで私の年のこと知ってるのよ? もういい加減にして」新田は本気で怒り出した。
誰もが丸出にもうんざりだが、署の外もうんざりするほど暑い。
(次回に続く)
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