怪しい名探偵 第3回 署長の秘密

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 外は相変わらず燃えるように暑い。いったいいつまで続くのか? 誰もがうんざりしている。暑いだけではない。今日も丸出(まるいで)は署へ遊びに来て、立川課長と雑談をしている。相変わらずコートの下は、白いランニングシャツにステテコ姿。  丸出のことを考えただけで、海老名はさらにうんざりとした気持ちが倍加する。あいつはただのバカじゃない。今回の事件で、かなり高度な情報収集力を持っていることがわかった。署長を狂気一歩手前の行動に駆り立てるほどの極秘情報を握って、ゴミと一緒にコートのポケットに入れていることが。あいつはいったい何者なんだろう? 何度も考えて来た疑問が、さらに重みを増して海老名の肩にのしかかる。  「エビさん、元気ありませんね。今日も二日酔いですか?」大森が隣の席から海老名に声をかけた。「もう事件も解決したことだし、そろそろ休暇でも取ったらどうですか?」  「そうだな、そうするか。俺も白馬へ行って、泥だらけの汚い雪でも見に行って来よう。ここで丸出のバカ面見るぐらいなら、一生休暇とってやる」  元気がないのは海老名だけではない。海老名の向かい側の席では、新田が大きくため息をついていた。  「あと5日か……」新田がそうつぶやいた。  「何があと5日なの?」海老名が聞く。  「私の誕生日……」  「そっか、新田さん、もうすぐ誕生日か。そんな暗い顔することないじゃん」  「だって、また1つ年をとるんだもん」  「確か今年で25になるんだろ? まだまだ若いじゃん。もっと本腰入れて男探せば、引く手あまただぜ」  「ま、20年ほど(さば)読んでるけどね」と大森がつぶやいた。  「大森君、何か言った?」新田が怒って言う。  「あ、いや、誕生日のプレゼント、何にしようかなと思って……」  「プレゼントなんかいらないわよ。もう放っておいて」  「そんなこと言うなよ、新田さん」海老名が言う。「盛大に誕生日祝ってやるよ。ケーキにバースデーキャンドル()してさ」  「バースデーキャンドルなんて、本当にやめて。今回の事件でもううんざり。ケーキもプレゼントもいらないから、私の誕生日のことなんか、もう忘れて」  そこへ丸出までやって来た。  「やあ、おばさん、もうすぐ45歳の誕生日ですな」  「どうしてあんたまで私の年のこと知ってるのよ? もういい加減にして」新田は本気で怒り出した。  誰もが丸出にもうんざりだが、署の外もうんざりするほど暑い。  (次回に続く)
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