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ずっと考えていたんだろ、と昂明が言うと銀は笑って「ああ」と答える。
心からの桜への言葉。
銀のその気持ちが桜に伝わったのだ。
「裳着を終えたらすぐにでも戻ってくるんじゃねえか」
「さあ」
銀はそう言って寂し気に笑う。
「邸の外に出たら、色んな出会いもあるだろう。僕のことなんてすぐに忘れてしまうさ」
あそこまで言っておいて、この式神は本気で思っているのだろうか?
昂明には分かっている。
桜は絶対に銀のことを忘れたりなどしないだろう。
そのことに銀が気づくのはいつになるのやら……。
* * *
季節が巡るのは早い。
あれから夏が終わり、秋が来て、そして冬が訪れた。
初めの頃は桜の消えた邸は寂しいね、などと銀や兄達と語らったものだったが、今ではそれもすっかり慣れたものだ。
それに、あれから一度も桜に会っていない訳でもない。
昂明達が頼央の元を訪れる時、桜は決まって出迎えてくれる。そうして、待っていたとばかりに銀の元に駆け寄るのだ。
あれだけ泣いて昂明達の元から離れるのを嫌がった桜だが、今ではすっかり頼央の邸での暮らしにも慣れ、頼央の娘達とも仲良くやっているらしい。箏の稽古やら読み書き、歌合や貝合、毎日語り切れぬほど学んで遊んで……それを話してくれる桜の顔はきらきらとしていた。
裳着を済ませたらそんな顔もおいそれと見られなくなるのかもしれない、そう思うと少しの寂しさも過るのだが。
「桜は随分姫様らしくなったな」
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