45人が本棚に入れています
本棚に追加
手に持つ枝をくるくると回しながら銀が呟く。衣を被って良くは見えないが、その顔は微笑んでいるように見える。
久しぶりに会った桜の姿を、邸に帰る道すがら思い出す。
裳着もまだだというのに駄々をこね、細長姿で昂明達の前に姿を見せた桜は、刀岐の邸にいた頃よりもずっと姫らしく、昂明から見ても愛らしかった。崖下で彼女を拾ったのがもう遠い昔のことのように思え、なんだか無性に寂しくも感じてしまう。
「最近じゃいっちょ前に歌なんか詠むようになったらしいぜ」
銀の手にある桜の枝には、蕾と共に桜からの文が結び付けられていた。昂明が「なんて書いてあるんだよ」と茶化せば、「まだ読んでいない」と仄かに顔を赤くする。
満更でもない式神の顔を見て、春は近いと思う昂明だった。
『船岡の 雪消待ち侘ぶ 山桜 つもる白さを 面影にして』
――白い雪を見ると、いつだってあなたの事を思い出します。船岡山の山桜は、早くあなたの元に行きたいと願っています。
<了>
最初のコメントを投稿しよう!