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私達四人は、中学の時同じ吹奏楽同好会に所属していた。
元々私達の学校には大人数のちゃんとした“吹奏楽部”があったのだが、ハイレベルな練習についていける自信がなかったことと、代わったばかりの顧問の先生があまりにも厳しすぎることで有名だったということもあって入部を断念したのである。
その代わり、早映子を中心に作り上げたのがたった四人だけの吹奏楽同好会なのだった。
フルートの峰岸吹雪。
サックスの戸田早映子。
トランペットの藤崎駿。
そして、チューバの私、鈴木麻耶。
人数が少ないために部活動に昇格できず、吹奏楽同好会どまりではあったものの。四人だけでイチから自分達の曲を作ったり、アレンジをするのは本当に楽しかった覚えがある。大きな大会には出られなかったが、それでも文化祭では流行の曲を演奏してそれなりに盛りあがった。自分達にとっては大切な、青春の一ページである。
私と早映子以外の男子二人は違う学校に進学したものの、それでも電話やメールでのやり取りは続いていたし、時には顔を合わせることもあった。自分達でこういうのも何だが、今でも“仲良し四人組”の関係は続いていたと言っても過言ではない。
しかしまさか、久しぶりの四人集合が、こんな形になるとは思ってもみなかったが。
「俺達、誰かに拉致られたってことだよな?」
吹雪がやや青い顔で言う。
「部活から帰ろうとして……駅の近くで友達と別れたってところまでは覚えてるんだけど、それ以上のことが全然記憶にないんだわ。何でいきなりこんなところに連れて来られてんだか」
「そういえば、吹雪は今は軽音部でボーカルしてるんだっけ」
「ギターもやってるぜ。フルートもやめたつもりじゃないんだけど、どうせならいろんな音楽を追及してみたくてだなー。俺、そもそも吹奏楽が好きというより、音楽が好きでフルートに挑戦してたってタイプだからさ」
「あー、前にもそんなこと言ってたかも」
吹雪の学校は県内でも有数の進学校であり、東大合格者を何人も出しているようなところである。それで本格的に部活もやっているなんて、相変わらず凄いなあと感心してしまう。イケメンで、頭も良くて絶対音感もあって要領も良い。その才能、ちょっとは私にも分けてくれないだろうか。
「あたしも全然覚えてないや」
早映子が申し訳なさそうに言った。
「あたしの場合は、部活なかったからそのままソッコーで家に帰ろうとしたはずなんだけど。マンションの近くまで来たところで記憶が飛んでんだよな。そこで殴られでもして拉致されたってことかね。……このあたし相手に不意打ちとはやるじゃねえか」
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