教室のリゼット

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 パン!と自分の左の掌に、右の拳を叩きつける彼女。小学校から中学まで、ずっと空手道場に通っていた早映子である。確かに、彼女を攫うとなると、相手はかなりのツワモノと思って間違いないだろう。 「何の目的でこんなことしてるかわかんねーけど、いい度胸だ。安心しな、みんなのことはこの早映子様がきっちり守ってやっからよ!」 「ははは、早映子が言うと頼もしいなあ」  苦笑するのは最後の一人、駿だった。 「僕も、昨日は美術部がなかったからすぐに帰ったはずなんだけど、学校出たあたりから記憶が曖昧で。……ただ、今までもみんなの話で、ちょっとわかったことはあるかも」  駿は立ち上がると、ぐるりと周囲を見回した。そして、教室の後ろの方へと歩いていく。 「部活があって帰りが遅かった吹雪と麻耶と、僕や早映子みたいに部活がなかった人の帰る時間が同じだったはずがない。でもって、みんな拉致された場所もバラバラだし……正直僕は、早映子みたいな強い人を一人で攫える自信ないんだよね。ていうか、四人同時に浚ってるわけだし……これ、複数犯で計画的犯行ってことになるよね?」 「確かに。うわ、本当にテロ組織とかに、“今から殺し合いをしてもらいます”とか言われちゃうクチなのかな」 「流石にそれは無いと信じたいなあ。それに、殺し合いさせるつもりなら武器も配らないんじゃ意味ないでしょ。みんな早映子に殺されてあっさり終わっちゃうよ」 「もしもーし駿さーん?」  早映子が引き攣った笑みでツッコミを入れる。――私は心から駿に感謝していた。こういう状況でも、冷静に判断してくれる友人が一人いるのといないのとでは大きく心境が異なる。それに、さらりとジョークを言って和ませてくれるのもありがたい。いくら武力があっても、早映子がそんなことをする人ではないとわかっているからこその言葉なのだから。 「此処が本当に学校なのかわからないけど。学校っぽいセットを作ってあるのには、絶対意味があると思うんだよね。例えば、こんな習字まで作って貼り出すくらいなんだから」 「そりゃそうだ」  私も、教室の後ろの方へ近づいてみる。ずらずらと貼りだされた習字は、良く見るとどれも字が似通っていた。一人か二人の人間が、人数分急いで習字を書いて完成させたとわかるくらいの雑さである。――裏を返せば、習字の字は今回の件に関係ない。それよりも関連性がありそうなのは、そこに書かれている名前、だろうか。  その中に、中二、藤崎俊、の名前を見つけて私は眉を顰める。 「駿の名前があるね。なんでだろ」 「これ、他のみんなの名前からして……二年生の時の僕のクラスを再現したんだと思う。二年二組。他の三人は違うクラスだったからわからないだろうけど」
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