夜空に咲く花

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夜空に咲く花

 「じいちゃーん。そろそろだよぉ!」  そう言ってボクはじいちゃんの  シワシワになった手を握り  縁側の特等席に座らせた。  今日は近所の花火大会だ。  ボクの家の庭から見える。  ワクワクしながら空を見上げる。  父ちゃんと母ちゃんと姉ちゃんも  空を見上げていた。  じいちゃんは静かに目を閉じてた。  一瞬シンと静まり返った直後  ヒュウゥゥゥゥ  ドッドーーーーン!!!  花火大会が始まった。  真っ暗な夏の夜空に  大輪の花が咲いた。  「たーまやーー!」  「キレイだねぇ。」  「美しいねぇ。」  「大きいねぇ。」  家族がそれぞれ口にした。  じいちゃんの方を見ると  やはり目を閉じたままだった。  じいちゃんは今年90才を越えた。  幼いボクにはよく分からないけど  白内障という目の病気で  ほとんど目が見えていないと  母ちゃんが言っていた。  「やっぱり見えていないのかな?」  気になってじいちゃんに近づき  声をかけようとした時だった。  「見事じゃのう!」  ニッコリしながらじいちゃんが言った。  「えっ?じいちゃん見えてるの?」  「ははは。見えとるよぉ。目が見えんでも見えとるよぉ。」  目を閉じたままじいちゃんは  無邪気で嬉しそうに笑っていた。  ボクはシワシワのじいちゃんの手を握り  「じいちゃん来年も一緒に見ようね。」と言った。  「そうじゃのう。楽しみじゃのう。」  そう言ってじいちゃんは  ボクの頭をポンポンと撫でた。 ──二十年後    「おい、そろそろ始めるぞ。」  親方が合図を出した。  ヒュウゥゥゥゥ  ドッドーーーーン!!!  夏の夜空に大輪の花が咲いた。  あの夏の花火大会が終わり  しばらくしてじいちゃんは  天国へと旅立った。  来年の約束は果たせなかったけど  僕は花火師になった。  空の特等席から見えるようにと  願いを込めて打ち上げる。  「じいちゃん見えてるか?」  「見事じゃのう!」  嬉しそうに喜ぶ  じいちゃんの声が聞こえた気がした。        ─完─  
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