2,申の年 祖母と幸代

2/2
前へ
/7ページ
次へ
「由紀ちゃんのまわりで、最近死んだ人いる?」 公園を取り囲む柵は、ベンチ代わりに座ったりもたれたりする人で埋め尽くされていた。 幸代は柵に友人の由紀と並んで腰を下ろし、お気に入りのバクダン別名ポン菓子を袋からつまんで食べながら訊いた。 「親戚の伯父さんならいるけど。なんで?」 そこで幸代は芙紗から聞いた話を由紀にした。 由紀は目を丸くして驚いて背筋がゾッとしたが、目の前の櫓の上で颯爽と踊っている憧れの芙紗の話と聞くと、1も2もなく信じた。 「この中に、あの世から来た人がいるのかなあ」 「幽霊とは違うんだよね、きっと。幽霊って、超えてはいけないラインを超えて立ち入り禁止の場所に現れるっていう感じだけど、お盆に帰ってくる霊は、ちゃんとお迎えの準備ができていて歓迎されるんだよ。 だから盆踊りにも正式に招待されていて、幽霊ぽくない見た目で堂々と踊ってると思う」 そう言って幸代はまたバクダン菓子をつまんだ。 由紀が菓子に興味の色を浮かべて視線を向けたのに気づいて、幸代は菓子をつまんだ手を由紀の方に伸ばした。 「これ美味しいよ。お米でできてるんだって。ポップコーンよりいい」 「ありがと」 と由紀はバクダンを口に入れ、「うん、美味しい」と感激した風に言った後、幸代が着ている浴衣に言及した。 「その模様、朝顔なの?可愛い!」 白地に赤っぽい色の朝顔が、まるで盆踊りに合わせて咲いたという風情で鮮やかにそして可憐に浮かび上がっていた。 「これね、今年の盆踊りにためにおばあちゃんと一緒に選んだの。いいでしょ。1年しか着られないんじゃもったいないけど、腰上げっていうので丈を詰めてあるから、来年ももしかしたらその次も着られるって」 「いいな、私も今度浴衣買ってもらおうっと」 2人は曲がアニメのキャラクターの音頭になった時、踊りの輪に加わった。 赤っぽい提灯の灯りと天空の月の光に照らされた祭りの空間は、夢幻の舞台だった。 そこは、天の川にもっと近い場所。 天国や極楽と行き来できる場所。 生きている人とお盆に戻ってきた霊とがそこでは見分けがつかなくなり、渾然一体となって踊りに熱中し、夏の夜にむせかえるような熱気を放出させる。 幸代は見よう見真似で踊りながら、ぐるぐる回るこの輪は祖母がかけていたレコードのようだと思った。 繰り返される踊りと曲。 けれども、曲も踊りもそのたびに少しずつ違う。だから何度も何度も繰り返して踊る。 今年の盆踊りは去年とは違うし、おそらく来年とも違う、今年だけの盆踊りを踊っているのだと、小学生の幸代は肌で感じていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加