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幸代は去年の朝顔柄の浴衣の腰上げをほどいて着た。去年より3,4センチ背が伸びて、浴衣はちょうどいい丈になった。
まるで浴衣に促されるように、幸代は盆踊り会場の公園に向かった。母親は、父邦男の帰りを待ってあとから行くと言った。
輪の中に入って踊ってみたが、いつもの習慣で櫓の上に目をやり、そこに祖母の姿がないことを知って改めて祖母の死という事実に撃たれた気がした。
輪から出て、もしやと思って踊る人々や周囲の人々の中に祖母の姿を求めたが、見つけることはできなかった。
父母が来た頃には幸代は踊るのをやめて、暗い表情で柵にもたれていた。そして「もう帰る」と言って一人先に戻った。
それから30分ほどして両親が戻ってくると、幸代はリビングで電気もつけずぼんやり座っていた。
暗い部屋に、盆踊りの賑わいと明かりが失われた時からのフラッシュバックのように流れ込んでいた。
多江が「電気つけるわよ」と断ってスイッチを入れた。
幸代が泣いていたのではないかと推測したが、あえて顔は見なかった。
冷蔵庫に冷やしてあるスイカを取りに行こうと多江が台所に足を向けた時、幸代がポツリと呟いた。
「おばあちゃん、いなかった……」
母親は足を止め、床をそこが自分の大切な基盤であるかのように踏みしめて言った。
「おばあちゃんはちゃんとお盆に帰ってきたわよ。たまたま見えなかっただけ」
「おばあちゃん、いたんだ、いるんだ!」
その声には涙が入り混じっていたが、幸代は笑みを浮かべて出窓の方を見た。
その時、出窓に飾られた干支の酉の置物が幸代の視界に入り、そのとさかの赤が提灯の残像のように染み込んできた。
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