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食事を済ませると、多江は仏壇に手を合わせてから仏事に赴くような神妙な面持ちで夫と連れ立って盆踊りに出かけた。
盆踊りの熱気とひんやりした夜気が反応し合って、錬金術でも起きそうな雰囲気だった。
輪になって踊る人々は、何かに取りつかれたように踊っていた。
まるでそれが、死者をよみがえらせる儀式であるかのように。
踊る人々の輪を眺めていた多江は、急にくらっとめまいを感じ、両手で目を覆った。
数秒後、再び踊りの輪を見た多江は、そこに紺色の浴衣の芙紗と朝顔の柄の浴衣の幸代を見つけた。
確かに、幸代だ。
母親の私が、見間違うはずがない。
朝に咲く朝顔の花はしぼんだけれど、浴衣の朝顔は見事に咲いている。
多江にはわかっていた。呼びかけたり近寄ったりしたら、幸代の姿は掻き消えてしまうことを。
多江はただ目を潤ませて、小さく呟いた。
「おかえりなさい」
(了)
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