火口へ

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火口へ辿り着き、ギリギリのところまで入る。手すりから下を見ると、濃いグリーンのドロドロしたものが、ボコッボコッと吹き上がっているのが見えた。 「すごいですね、地中からガスが噴出してるんですね」 「そうですね、硫黄のニオイがキツいですし」 「あっちの方へも行けるんですか?」 「行けると思いますが……」 「何か?危ないとか?」 「自殺の名所らしいですよ」 「…………」 「聞いた話ですけど」 「やめときましょ」 「そうしましょう」 モクモクと上空へ上がる白い噴煙も、真下で見ると迫力がある。太古の昔から、こうやってずっと噴火し続けていると思うと、神秘的でドキドキしてくる。 「ホントに好きなんですね、ここが」 榊原さんが言う。 「はい、なんだかパワーをもらえます。地球ができた時からずっとこんなふうに火山はあって。だから今自分が何かで悩んでいても、それはほんのちっぽけなことで、取るに足らないことなんだと思えてきます」 「そうですね。きっと恐竜がいた時代もここでこうして噴火していたんでしょうね。そう想像すると、ロマンがあります」 火口を覗き込む榊原さんを見ながら話す。 「だからね、榊原さん、ほんの一瞬のことかもしれないけど、こうやって出会えて、同じ時間を過ごせることは私には大切な宝物なんです」 ゆっくりと振り返って榊原さんが答える。 「僕の人生には、こんなドラマチックなことはありませんでした。それがいいか悪いかではなくて、僕にとっても大切な時間だということです」 「よかった、同じですね」 「そうですね、大切にしましょう」 この時間を大切にする、それだけが二人の約束。
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