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朝
「そろそろ起きましょうか?」
ふわりと肩を抱かれて目が覚めた。
___あ、もう朝か…
寝物語にいろんな話をした気がするのだけど、その時間がうれしすぎて興奮してあまり記憶にない。
「あーっ!もったいないことした!」
全部おぼえておきたかったのに、記憶にない。
「なにがですか?温泉なら、まだ今から入れますよ」
「そうじゃなくて、あっ、わっ!」
寝ぼけてたからか、浴衣も下着もないことに今頃気づいた。
「え、榊原さんはいつのまに?」
「僕はなんでも無駄なく進めたいので」
「もうっ、仕事じゃないんだから」
「ほら、冷えちゃいますから」
浴衣を背中にかけてくれる。
「あっちを向いててください」
「なんでですか?」
「下着を付けるところは、脱ぐときより恥ずかしいので」
「よくわかりませんが、仕方ありませんね…」
部屋の中は朝日が差し込んでいて、障子だけの部屋は明る過ぎる。榊原さんが向こうを向いている間にさっさと下着を付ける。
「はい、もういいですよ、ばっちり!」
「じゃ、もう一度温泉に行きますか?」
「そうしましょう」
一通り身支度を整えると、朝ごはんの前に温泉に入る。朝から体が温まって軽くなった気がする。
ふと時計を見て、あと何時間、榊原さんといられるのか?なんて考える。
楽しい時間は、いつも急ぎ足ですり抜けていく。ずっと若い頃は、こんな時間が永遠に続けばいいと望んでいただろうに、今ではそんな気にはならない。それはおそらく、これまでそれぞれが重ねてきた時間と、手にしてきたものと、それらに対する責任があるから。
___きっと、いつかは終わってしまう
それはわかりきっていること。
たまに二人で話題にする、歳を重ねるということ。そのうち会いたくても会えなくなるとわかっている。だんだんと距離が空いていくだろうということも、仕方がないことだと納得している。
___永遠に続くものなんてない
でも、今このとき、この瞬間、私が榊原さんを好きだという事実は永遠に心に残すことはできる。あとはその思い出を大事に時の流れを過ごすだけ。
___誰にも知られず……
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