火口へ

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火口へ

旅館を出て、猿回しやドーム型の宿舎が並ぶ施設を通り過ぎ、草千里や米塚を見ながら、ロープウェイ乗り場まで行く。 途中のドライブインでは、駐車場を闊歩する馬にドアミラーを反対に曲げられてしまい、榊原さんは大慌てだった。私は見慣れた光景で、慌てる榊原さんがおかしくて、笑いが止まらなかった。 「そんなに笑わなくても!」 「だって、それくらいじゃ壊れませんし、ここはそういうことが、よくある場所なんだから」 “牛馬優先” この辺りの道路は、自動車よりも牛と馬が優先されていて、広い駐車場をパカラッパカラッと馬が駆けていくことはしょっちゅうだ。 「サファリパークみたいですね」 「なるほど。そんな感覚はなかったです」 「オーストラリアの野性のカンガルーもなかなか迫力がありましたが、ここの馬の方が大きいので、焦りました」 「あっちの方には、赤牛もいますよ」 「ホントだ、こんなところでソフトクリームなんて食べていたら、蹴られてしまいそうです。あっちへ避難しましょう」 赤牛の濃い牛乳から作られたソフトクリームは、濃厚で美味しい。ソフトクリームを手にした榊原さんは、急ぎ足でレストランの入り口を目指している。 「そんなに急がなくても大丈夫ですよ」 「いえ、何かあっては遅いです」 クククッとまた笑いが止まらなくなる。子どもみたいな榊原さんが、おかしくてたまらない。 腕を引かれて、自動ドアのレストランへ入る。 「ここなら安心ですね」 「だけどここにいる牛も馬も、自動ドアを開けて入ってきますよ、普通に」 「えっ!」 「冗談ですよ」 「もうっ、焦りました」 「放牧されてますけど、飼われているので人には慣れてますから、そんなに怖がらなくてもいいですから」 「ですよね?うん」 やっと納得した榊原さん。でも、車に乗り込むときに運転席ドアの前に牛がいて途方にくれていた姿はまた、私の笑いのツボに入った。
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