2004年8月3日

1/1
前へ
/4ページ
次へ

2004年8月3日

 夏期講習を終え、帰宅した俊一。玄関には脱ぎ捨てられた友則の運動靴が転がっていただけでなく、踵の高いヒールが二足揃えて並べられていた。俊一は思わず辟易した。あいつ。靴を脱ぎ、廊下を歩きながらも苛立ちを隠せない様子の俊一。    「あ~ん、ともくんの負け。じゃ次はあたし。行っくよぉ。」「ちょっと待ってくれえぃ。」リビングの手前、友則の寝室から聞こえてくる馬鹿馬鹿しげな声。振り払うかの如く、足を速めた彼はすばやくリビングへと入り、ぴしゃりとドアを閉めた。いつからだろう。  かばんを降ろし、仏壇へと向かう俊一。母の紗子がにっこりとした表情でこちらを見ている。俊一が小学校へ入る前の年の春、交通事故で亡くなったのだ。「ひどいもんや。」膝をつき、参ったという顔をして見せる彼。「母さんが死んでからや。あんなんになってったんは。全く何考えてるんか。家族思いのいい人やったのに初めは。家のことほったらかしにするわ俺の面倒もみいひんはめちゃくちゃや。おまけにどこの誰だか知らん女まで連れてきて。」話し込むように仏壇へと声を掛ける俊一。   「俺のことなんか今じゃ何にも分かってへんくせにさ。それやのに分かったものの言い方するんや。場合によっちゃそれが当たってることもあって。腹立つわ気持ち悪いわやで。確かに一学期はめちゃくちゃやった。勉強の仕方も分からずふらふらばっかりしてて。試験でえらい目に遭うたわ。コテンパンにやられてな。それからや。ちゃんとやってかんとあかんって自覚するようになったんわ。」  女の甲高い声が耳に聞こえた俊一。「いい歳こいた男とやりあってるんやろ。ほんま何が楽しいんだか。独身の身でやっとけよな。」テーブルへと移動した彼。作り置きの焼きそばが一皿とメモがあった。《俊一へ。帰ったら食べなさい。白ご飯炊いてあるから自由にどうぞ。》メモを放り投げた俊一。ゴミ箱の前へそれは落ちた。やるせない気分になりながらも冷めた焼きそばをチンする彼。俺は俺のできることを一生懸命やろう。親父のことなど当てにするか。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加