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城谷瑛斗と書いて、ちゃんと僕の名前を読めた人はこれまでに数えるほどしかいない。苗字は「しろたに」と、読んでくれるけれど、問題は名前で、大体が「えいと」と読まれる。本当は「あきと」と読むんですと、今まで何人の人に説明してきただろう。それすらも覚えていない。
トーストを食べ終えたのと同時に、テーブルの上に置いてあったスマホが鳴った。デフォルトのコール音が、遠い波音をかき消す。ディスプレイを見ると「桜庭清志」と表示されている。僕は慌てて端末を手に取り、電話に出た。
「もしもし」
「やあ、アキト。今日は休みかい?」
僕の名前を最初からちゃんと読んでくれた数少ない人の一人でもある清志は、これまた数少ない友達のうちの一人だ。中学のときに知り合った同級生で、その縁はもう十数年変わらず続いている。
「休みだよ。どうかした?」
「か」
「か?」
清志は一体何を言いかけたのだろう……などと、疑問に浸る余韻を、彼は与えてくれるはずもない。どうしたのと言おうとした僕を遮るように、彼は「買い物につきあってほしいんだ」と、勢いよくまくしたててきた。
「……また僕を足に使ってるよね、それ」
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