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「噂なんだけど」と、里菜が神妙な面持ちで僕に話しかけてきたのは、二人の休みが被る日の前日の仕事終わり、僕の家に彼女が遊びにきた日のことだった。僕は着替えのTシャツを頭から被ったまま「ん?」と答えた。風呂上がりに下着姿でいたら、里菜が困ったように「誘ってんの?」と言ってきたから、仕方なく服を着ようとしたのだ。
「アキトの係の新人くん、ほら、アキトの横乗りで最初頑張ってたコいるじゃん」
「相良?」
「そうそう!そんな名前の!」
「相良がどうかしたの」
その日の時点で、僕は社員食堂で相良と会ったきり、彼とは会話をしていない。営業所内で姿を見かけてはいたが、僕も相良も自分の業務で手一杯だったのだ。
「神田川さんに虐められているんじゃないかって、カスタマーの女の子たちの間で話題になってるの」
「え!?」
神田川というのは、相良の直属の上司の名前だった。僕の脳裏に、その男の姿が思い浮かぶ。歳は三十代で、ドライバー職の主任をしている。性格は明るい方ではなく、寡黙な男であるというのが僕の印象だった。
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