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 僕が曖昧な返事しかできないのは、普段無意識にそこを出入りしているから、扉の仕組みが思い出せないからだった。 「相良くん、その子に『まじあざっす、助かったっす。ちょっとだからって、コートを着ずに入ったらえらい目に遭っちゃったっす。ヒヤリハットっすね』ってえらく感謝してたらしいし、それ以上何も言わなかったから、大ごとにはならなかったけど、よく考えたら怖いよね」  僕も、仕事の日は連日そこに立ち寄ることがある。冷凍庫内は年中氷点下だから、夏でも半袖シャツのまま中に入ると、刺すような冷気が全身を襲ってくる。そのため、冷凍庫の横には誰でも着られる分厚いアウターが置いてあって、中で作業をする際にはそれを着用するように決まっている。とはいえ、ほんの数十秒、長くても数分で終わる庫内の作業のために、それを脱ぎ着する時間は惜しいから、僕を含め、大抵のドライバーは制服姿のまま中に入っている。相良も、例に漏れずそうだったのだろう。そのために、ひどい目にあったというのだ。
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