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「その辺でやめとけ。もうやっても意味はない」
振り返って見たキョーマの面は俺を哀れんでやがるのかしおらしいもんだった。
感情に任せれば殴るのを邪魔したこのガキに拳を向けていたところだったがギリギリ頭の歯止めが間に合った。
危うく返り討ちで死ぬところだった。
俺はキョーマの手を振り払った後、最後に床をぶん殴って立ち上がる。
店の床に穴が開いたが、すでに店の中は泥まみれで滅茶苦茶だからどうでもいいだろう。
気は全く晴れねぇが、これ以上暴れてキョーマを敵に回すのはごめんだ。
「これで血でも拭いときなよ」
キョーマはそう言って羽織っていたボロくせえ布を渡してきた。
本当にいらねぇお世話だがしぶしぶ受け取って両手の血を拭った。
「こいつらはどうするんだ?」
「もちろん全員処刑だ。魔王軍の仲間を生かしておく理由がない」
キョーマは周りの泥人形を一瞥した後魔術を使って人形どもの足元に火を起こした。
「そんな火で殺せるのか?」
「大昔にこういう処刑方法があったんだよ。まぁ正確にはちょっと違うけど、普通に焼き殺されるよりよっぽど長く苦痛が続く。一年もの間マルシャ王国の人々を苦しめた報いだ」
キョーマが店の出口を指差す。
「それじゃ出ようか。長居は無用だ」
そうして俺はクソガキを、キョーマはリドニーに飼われていた金髪の小娘を抱えて酒屋から抜け出した。
店から出た後、キョーマはその辺から拾ってきた絨毯みてえな大きさの布を地面に広げてクソガキと小娘を仰向けに寝かせた。
「だいぶやられてる。すぐ治療しよう」
確かにいきなり色々ありすぎてガキどもの状態にまで目がいかなかったが、出血こそねぇにしても相当殴られたり蹴られたりしたような痕が体に残っている。
「『ヒーリング』」
キョーマが寝かせたガキどもに無詠唱魔術を使う。
キョーマの右手から青い光が放たれ、光に当てられたガキどもの傷痕は嘘みてえに消えていった。
怪我や病気を治す魔術は高度なもんだとクソガキが言ってた覚えがある。
このキョーマとか言うガキはそんな魔術でも難なく使えちまうのか。
「これで体の傷は完全に治した。心の傷は消えないだろうけど…」
くだらねぇ。
心の傷がなんだってんだ。
生きていりゃなんだっていいだろうが。
このガキに貸しを作ったみてえで気に入らねぇな。
まぁ貸しなんざあっても返す気はさらさらねぇけど。
「ダン……ベル……」
少し時間が経つとクソガキが目を覚ました。
クソガキが目を覚ましてから間もなくリドニーの奴隷も目を覚ます。
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