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闇市に移動した頃にはだいぶ日も沈んできて辺りが薄暗くなっていた。
この時間はもうほとんどの商人が引き上げていて、無人のボロボロなテントだけが残されてる廃墟になっていた。
そんな廃墟の中で偶然にも見知った面を見つける。
できれば見たくもねぇ面だったが。
「肉屋か」
もはやこの闇市ではお馴染みになっちまった野郎だ。
今は変わらない場所とテントで今日の稼ぎを数えているところだった。
もちろんそばには蜘蛛頭と蝙蝠頭の亜人が護衛として付いている。
ボロい布の上に銅や銀貨を並べて呑気ににやにやと勘定している様子を見ると衝動的にぶっ殺したくなるな。
だが今はこの機会を一瞬の衝動で逃すわけにはいかねぇ。
「ダンベル」
「分かってら。余計な指図すんな」
俺とクソガキは肉屋のテントの前に移る。
護衛どもの警戒が向けられているのを肌で感じながら床に座って作業している店主に声を掛けた。
「よお。調子はどうだ?儲かってんのか?」
店主は手を止めて俺にそのムカつく面を向けてくる。
そして不愉快そうな目で答えた。
「はい。今日の稼ぎは上々ですよ。で、なんですか?もうとっくに店仕舞いで売れる品は一つもありませんが」
攻撃的な態度だ。
てめえにやられたことを思えば俺がこうして手を出さずにいることが奇跡的だってのに。
「肉を買いに来たわけじゃねぇ。頼みがあるんだ」
「すみませんがお引き取りください。客でもない見ず知らずの他人の頼みを聞いてあげられるほど暇じゃないんでね」
無意識に俺の手は腰に下げてある斧へ伸びていた。
だが、
「ダンベル」
クソガキが小さな足で俺の足を蹴ってきた。
てめえじゃなきゃそのまま斧を取って頭をかち割っていたところだぞ。
クソガキはさらに俺の懐をまさぐって勝手に例のものを取り出すと、そいつを肉屋の店主のところへ放り投げた。
地面を転がり、床に広げた布の上で止まったそれを見て店主の目の色が変わった。
「これで俺らは客ってことになるか?」
そう言うクソガキの方へ店主は視線を移した。
「へぇ……なるほど……お金のやり取りをするなら確かにお客様と言えるでしょう。なら無下にもできませんね。それで、頼みとは何ですか?」
店主の態度がガラリと変わった。
まぁ突然金貨が転がってくりゃ気も変わるだろうよ。
しかし俺が取ってきた金貨をそんな風に扱うとは、このクソガキ、命知らずにも程があるだろ。
普通なら今ので一万回は死んでるぜ。
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