04 少女の導き

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仮死状態? 検問を抜けるため? 「てかとりあえずその拘束を解くか。もう必要ねぇだろうしな。おい。ダンベルのこれもうほどいてやってくれ」 ガキが後ろを見てそう言うと蜘蛛頭の野郎が現れ、ナイフで繭みてえになってる蜘蛛の糸を下地の布ごと切り裂いた。 これで俺も五体が自由になった。 羽化した蝶になった気分で体を起こしてみれば大体の状況が分かった。 ここは移動中の馬が引いている荷台の上だ。 箱やら袋やらが雑に置かれている中で、クソガキ、それに肉屋が雇ってる二人の亜人も荷台に乗っている。 荷台の先頭に付いた操縦席には店主が座っていて、どこへ向かっているのか分からねぇが馬車は草しかねぇ殺風景な平原を走っていた。 当然こんな場所はマルシャ王国にはねぇだろう。 つまり、 「出られたんだな…」 「そうだよダンベル。俺たちの勝ちだ」 そう言ってクソガキが俺の隣に座った。 「何があったか説明いるか?」 「そうだな…なんで仮死状態にされた?」 「ベンチ。ああ肉屋の店主の名前な。ベンチが言うには魔王軍の検問を誤魔化すために俺らを死体に偽装したらしい。死体を持っていくことは許されてるんだってさ。過去に何度か加工用で外に持ち出したことがあるそうだ」 「ほう。そりゃ賢いな。蜘蛛糸でぐるぐる巻きになってたのはなんなんだ?必要だったのか?」 「死体だって言う説得力を上げるためだ。蜘蛛の糸は隙間なく巻くと空気も通さないくらいの密閉具合になる。こいつは肉の保存に使われているが、当然普通の人間なんかが入っていれば余裕で窒息する。だから生きている人間がその中に入っているわけがないと誤認させることが出来るんだ。実際は肉眼じゃ分からないくらい緩く巻いて最低限の風通しはあるんだけどな。布の上に巻いたのは直接巻くと体に糸がへばりついてほどくのが面倒だからって理由だ」 「なるほどな。まぁ難しいことは分からねぇが要はうまくいって検問の目をすり抜けたってことか」 「そういうことだ。交渉通りベンチは俺たちを外に出してくれたよ」 「そうみてえだな」 荷台の先で縄と鞭を使って馬を操縦している肉屋のベンチへ視線を移す。 「おいベンチとか言ったな。てめえ脅かしやがって。てめえの護衛に毒をもられたときは裏切られたかと思ったぜ」 「そいつは悪いことをしましたねダンベルさん。やり方を説明しても信用してもらえないと面倒だと思いまして。不意打ちのようになってしまったことは謝ります。ですがこれだけは言わせてください。私が取引で裏切ることはありえません。これでも一応商人なんでね。商人は神の教えに背いても金の契約には決して背かない。そういうもんです」
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