00 それはある『転生者』の物語

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Ⅱ しばらくすると体の感覚が元に戻ってくる。 凍えるような寒さもなく、体温が上昇していくのが分かる。 目はまだ目蓋が重くて開けられないが、とても明るい場所に移ったようだ。 手術台の上でライトを当てられているのか? だがそういう類いの明るさではない気がする。 どちらかと言えば自然光だ。 自身を照らしている光に暖かみがある。 そういえば事故に遭った時は暑すぎるほどの快晴日和だったが、まだ外にいるというわけではあるまい。 それに日本の夏特有の嫌な湿気を全く感じないのだ。 寒すぎず暑すぎず、湿度もちょうどよい。 思わず寝てしまいそうになる心地のいい空間だ。 段々意識が戻ってくる。 体も、あれだけ凄惨な事故に遭ったにも関わらず、五体にしっかりと感覚がある。 体の麻痺はないようだ。 しかし、それは本来望んでいた結果ではない。 俺は死ねるはずだった。 あの場で死んで、ナマケモノにでも生まれ変わるはずだったのだ。 それが無様にも生き残り、再び地獄のような現実に帰らなければならないのか。 まだ俺に生きろというのかよ。 目蓋が軽くなってきた。 もう目を覚ますことができる。 目を覚ませば病室で、白衣の医者や涙で眼を腫らした両親でもそこにいるのだろうか。 俺なんかを生みやがった憎い親が。 そして俺は目を開けた。 「え?」 目の前に広がっていた光景は意外にも、一面の空だった。 雲ひとつ見つからない黄昏時の空。 黄金の空である。 なんとなく神秘的な感覚を覚えた。 美しい空に見とれていたが、一瞬遅れてそれどころではない事態に気づいた。 俺はなぜか制服を着たままであり、さらに病室のベッドでも自宅の布団でもなく、地面に寝ていたらしい。 それも見たところ石造りの地面である。 石膏でもアスファルトでもなく、黒に近い灰色の石製。 さらにその石の地面には見たこともない複雑な模様が刻まれていた。 「なんだ…ここは…?」 上半身を起こして辺りを見渡してみる。 何もない。 家は愚か木の一本さえ見当たらず、どれだけ遠くを眺めても山一つない。 金色の空と灰色の地面が際限なく続いているだけだ。 立ち上がって少しだけ歩いてみるが、案の定景色は全く変わらない。 自分が動いているのかさえ疑問に感じるくらいである。 やがて冷静に考え、単純な疑問が沸いてくる。 こんな光景が一体日本のどこで見られるのだろう? いや、日本どころではない。 世界中のどこにこのような場所があるのだろう?
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