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無風だが空気はある。
外であることは間違いなさそうだ。
だが外である以上、遠くを見渡せば流石に何かは見えるのではないだろうか?
どれだけ彼方を見ても、空には雲一つなく、街も山も海も川も草も土も何もかも見つからない。
360度、視界に入るのは黄金と灰色。
「いや待て、それどころの話じゃねぇぞ」
更に衝撃的なことに気づいた。
「太陽が、見つからねぇ」
辺りは明らかに真昼の明るさであり、太陽光に照らされているはずであり、もし太陽がなくとも空に輝く光源がなければおかしい。
「これ、まさか、まさかなのか…」
あまりにも現実とかけはなれた空間に、俺は一つの仮説を思い浮かべた。
俺にとっては喜んでいいのかどうか微妙な仮説ではあるが。
「まさかここ、あの世ってやつ?」
俺がそう認識した直後であった。
黄金の空から突然目の前に閃光が降り注ぐ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
突然の出来事に驚き、情けなく姿勢を崩して尻もちをつく。
硬い石の地面のはずだが、不思議と尻もちによる衝撃も痛みもなかった。
それが逆にリアルで、現在の非現実的な空間を生々しく認識させられる。
空から降りた閃光は6つあったようだ。
光は地面に降りたあとも消えず、6本の白い光の柱が目の前で輝く。
やがて光が消えると、光の中から人影が浮かび上がった。
その正体は同じ純白のローブで身を包んだ女性だった。
身長は様々。
俺と同じくらいの身長もいれば、小学生くらい小さい者もいる。
6人ともフードで頭の上半分が隠れているため全員女性だと断定できないが、そのうち3人はローブの上からでも分かるほど女性的な体の起伏が見てとれる。
『聞こえますか?』
やがて美しい女性の声が響く。
大人びた、少し低い女性の声だった。
『聞こえますか?人の子よ』
「あ、はい。聞こえてます」
敵意はなさそうに思えたが、どうしても身構えてしまう。
『警戒する必要などありません』
心の内を見透かすように彼女は言う。
…彼女は、といってもなぜか目の前の誰ひとりとして口を動かしている様子がないので、誰が話しているのか不明だが。
ひょっとして天の声ということもありうるのか。
『我々は儀式に従い、あなたをここに導きました』
「儀式?いや、その前に確認なんですけど、ここって死後の世界ってやつですか?」
『死後の世界とも言えますね。ただあなたが想像するような場所とは少し違いますが』
「えっと…地獄には見えないんですけど……ここってまさか地獄ではないですよね?」
『ええ。地獄ではありません。どちらかと言えば天国ですが、天国でもありません。ここは上位世界。あなたの持つ知識で表現するなら天界という言葉が最も近いでしょう。そして我々の存在は神とでも認識してください』
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