ごめんね、なっちゃん 

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 なっちゃんの筆箱は可愛いキャラクターがプリントされたやつ。 その筆箱の隅っこには白い消しゴムと一緒にこの消しゴムも入っていた。 私たちが住む田舎にはこんなおしゃれで可愛い消しゴムなんて売ってなくて、車でちょっと行ったところにある大きいスーパーにだって香り付きの消しゴムなんて売ってなかったから。あの消しゴムを持ってるなっちゃんがとても羨ましかった。  あの日家の都合で遅れて登校してきた私は急いで教室へ入った。 みんなが外で体育の授業をしているのが見えた。 私は教室のカーテンを閉めて急いで体育着に着替えた。 その時、なっちゃんの筆箱が目に入った。 そっと筆箱を開けるとそこにはあのケーキの形をした香付きの消しゴムが入っていた。 取るつもりなんて全然なかった。 ただ自分の手で触って、香りを嗅ぎたかっただけ。 なっちゃんに一言、消しゴム見せてって言えばよかっただけなのに。  そうして消しゴムをなっちゃんの筆箱から取りだして触っていると、廊下の方から誰かが走ってくる音がした。 だから私はとっさに自分の洋服と一緒になっちゃんの消しゴムを体育着入れに入れてしまった。 教室に入って来たのは良子ちゃんだった。 「おはよう、今来たんだ。私水筒忘れちゃって今取りに戻って来たの」  良子ちゃんはそういうと自分の手提げからピンクの水筒を取り出した。 そして、私の方へゆっくり近づいてきたかと思うとなっちゃんの机の前で止まり、じっとなっちゃんの机を見ていた。 「なっちゃんってさ、いつも可愛いの持っててずるいよね。  手提げも洋服もさ、この辺りじゃ売ってない可愛いのばっかり。  私たちは持ってないのに。自慢してるみたい……」  良子ちゃんはそう言いながら筆箱を手に取ると私の顔を見て笑いながら  言った。
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