ごめんね、なっちゃん 

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 なっちゃんが私たちの住む田舎に引っ越してきたのは小学4年生の頃。 詳しい話はよくわからなかったけれど、なっちゃんの両親が離婚してお母さんの実家があるこの田舎へ戻って来たのだと近所のおばさんたちが言っていたのを覚えている。  なっちゃんは背中くらいまで伸びた黒い髪がとても綺麗で、洋服もこんな田舎じゃ誰も着ないようなおしゃれなワンピースを着ていた。 田舎から出たことがない私たちからしたら、テレビの中の芸能人がやって来たのと同じくらいの大騒ぎ。 各学年1クラスしかない田舎の小さい学校にやって来た東京からの転校生に、1年生から6年生までが毎日のようになっちゃんを見に教室までやって来た。 特に1年生や2年生の小さい子たちは、なっちゃんからテーマパークや動物園に行ったときの話、美味しいお菓子の話などを聞いていた。 なっちゃんは休み時間や放課後、帰り道まで色んな子に囲まれて楽しそうだった。  なっちゃんが引っ越してきて初めての夏休み。 学年問わず色んな子たちがなっちゃんを遊びに誘った。 近所の駄菓子屋、商店街、川遊び、虫取り……。 みんなが我先にとほぼ毎日なっちゃんの家へ行っていた。 なっちゃんは嫌がるような様子もなく、一緒になって私たちと遊んだ。  いつからだっただろう、 夏休みも終わり秋になり寒い冬が本格的に来る少し前くらい。 なっちゃんは上履きを履かず靴下で教室へ入ってきた。 気付いた近くの子がどうしたのか、と尋ねると 上履きがなくなっちゃって、と言った。 昨日帰るときにきちんと下駄箱に入れたはずのなっちゃんの上履きが無くなっていたのだ。私たちはなっちゃんと一緒に下駄箱へ行き、玄関の近くも探し回ったが見つからなかった。 一度教室へ戻ると先生が教室へ入ろうとしているところだった。 私たちは先生、と声をかけ走って行き、なっちゃんの上履きのことを話した。 先生はとりあえずなっちゃんに来賓用のスリッパを貸してくれた。 休み時間と放課後に先生や他の子たちともう一度探したが、結局なっちゃんの上履きは見つからなかった。 「探してくれてありがとう。  どこ行っちゃったんだろうね、足でも生えちゃったのかな?」 なっちゃんはそう言って笑うと家へ帰って行った。
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