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早い者勝ち。
葛城柚葉を呪ってやる。そう決めた理由は単純明快だった。許せなかったからである。
あの女が私のクラスに転校してきたせいで、何もかもが滅茶苦茶になった。今なら、白雪姫を殺したいと思ったお妃様の気持ちもわかろうというもの。――まあ、白雪姫に相応しいのは私の方だけど。
「葛城さん、大丈夫!?」
今日も今日とて、あの女の周辺はやかましい。特に今日は、あの女が怪我をしたとかでちやほやされているのが原因だった。何でも、電車に腕を挟まれて引き摺られるという災難に見舞われたという。その結果、彼女は大袈裟に左腕を吊っており、左膝にも大きなガーゼか貼られているという状態だった。
「酷いよね、腕挟んでるのに出発するなんて!」
「ほんとだよ、普通はドアって反射的に開くようにできてるんじゃないの!?」
「マジで有り得ない!」
「みんな、怒ってくれるのは嬉しいけど、それまでね?これは私の不注意で、電車の人は悪くないの」
柚葉は苦笑いしつつ、周りの友人達を窘めた。
「ちょっと変なふうに折れちゃってるから時間はかかるけど、きちんとリハビリすれば治るって先生も言ってくれたよ。それに、利き腕じゃないから文字とかも書けるしなんとかなるって。……でも、なんか困ったことあったら助けてもらっていい?」
「もち!」
「何でも言ってよ!」
ひょっとしてわざと怪我したのかコイツ?と思うほどに落ち着いている。確かに、怪我して包帯だらけで登場すれば、みんなに同情して貰えるだろう。本当に左腕を複雑骨折してるならやりすぎだが、その話だって現状は本人の自己申告でしかない。実際は、大した怪我ではないなんてこともあり得る。
――みんなに構って貰うためなら、そこまでやるっての?忌々しい。
『クラスのKがましでうざい。大袈裟に包帯ぐるぐるで教室に来て、同情してほしいのが見え見え。どうせなら本当に電車に轢かれてぐしゃぐしゃになればよかったのに』
イライラしながら、私はスマホで文字を打った。ニシノ高校の裏掲示板に、柚葉の悪口を書き込むのはもはや日課になっている。彼女が転校してくるまでは、クラスメート達にちやほやされるのは私だった。何故、あとから転校してきたブス女に何もかも奪われなくてはいけないのか。
私のほうが頭もいいし、美人だし、スタイルだっていい。それまでは、みんなが私を崇めて、私の言うことは何でも聞いたのに――彼女が転校してきて私に逆らってから、彼女の側について歯向かう奴が圧倒的に増えたのだ。
『今時パシリなんて古いよ。それも、奢らせる気?……お弁当一つ買うお金がないくらい貧乏なら、命令じゃなくてちゃんと誠意を持ってお願いしなよ』
クラスのカーストで最下位だった少女に、弁当を買ってこいと命令した時に言われた言葉だった。クラスの順位をわかってない馬鹿な女。明日からいじめてやる、そう心に誓っていたのに。
気付けばクラスの半分が、あの女の軍門に下っていた。特に、カースト底辺だった女子共が。
――ふん、いい気になってるのも今のうちなんだから。
『Kってあの顔でウリやってるって話ー。エロサイトに写真載ってたんだって』
『あのカオで男にカラダ売ってるとか、自己顕示欲と金の亡者すぎて引くわー』
『駅前のコンビニの万引き常習犯って噂もあるけどほんとかな?』
ID表示のないサイトであることをいいことに、私は別人のふりをして次々と柚葉の“噂”を書き込んだ。見えないところで自分が万引き常習者の売春婦ということにされていると、彼女が気付いた時が楽しみである。
だが、私の怒りはこんなものでは収まらない。
彼女には、きっちり報いを受けて貰わなければ。
――あんたなんか、腕どころじゃない目に遭わせてやるんだから!
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