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よく磨かれていそうな革靴、折り目のキチンと付いたスラックス、玉虫色の光沢があるベストに糊のきいたシャツ、首元はシャツの第一ボタンを開け、ほどかれた蝶ネクタイがぶら下がっていました。
どれも品の良いお召し物で高級なんだろうなぁとイッサはひと目見て思いました。
そしてイッサは宇佐美の顔に目をやりました。
一見コワモテでしたが、顔のあらゆる穴から人間性の良さが漏れ出ているように魅力のある顔をしていました。
少しうねりのある髪を後ろに束ねて、日焼けしたたくましい顔は優しく笑っていました。
宇佐美は怯えるイッサを刺激しない立ち振る舞いを心得ているのか、不用意にイッサに近づくことなく問いかけました。
「今から夕飯を食べようと思っているんだが、ひとりでレストランに入るのはどうにも寂しくてね。良かったら一緒に来てくれるかい?」
普通なら何か裏のありそうなお誘いでしたが、イッサは宇佐美の姿を見て少しも怪しさを感じませんでした。
イッサは黙って頷くと、宇佐美に誘われるままに宇佐美の用意した車に乗りこみました。
高級そうな服屋さんでたくさんの服を買ってもらい、高級そうなスーパー銭湯で体を綺麗にさせてもらい、高級そうなレストランで食事をいただきました。
何もかもが初めて。すべて「高級そうな」の一言でしか表せないほど、イッサには見たことがない世界でした。
食事の際にイッサは自分のこれまでの人生を宇佐美に話しました。
宇佐美はそれに同情することもなく、憐れみや激励といったイッサの心に土足で踏み込むこともせず、イッサの話を聞いてくれました。
「行くとこないならウチにおいでよ」
またも裏のありそうなお誘いでしたが、イッサは宇佐美と話をする中で、この人になら騙されても仕方がない、と思うようになっていました。
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