この恋が消えちゃう前に〜Another Story〜

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 私には内緒にしていることがある。  それは……。私が唯月くんを好きになりかけてしまったこと。  この恋が消えちゃう前に〜Another Story〜  優花の好きな人が唯月くんって知ったとき、全力で応援するって決めた。  初めての登校日、青嵐高校の男子生徒が入ってきたとき、必死に名札を見て唯月くんを探したけど、名札は名字しか書いてなくて、わからなかった。  唯月くんの苗字を知らないことに気がついた。  あ、格好いい人発見。  今思えば、これが私から見た唯月くんの第一印象。この時はまだ恋に落ちてはいない。  一目惚れにも程がある。  お互いに自己紹介した時、あの格好いい人が唯月くんだと知った。  ちょっと複雑な気持ちになったけど、優花、見る目あるなって思った。  私達は食品販売をするこになった。  チーム分けをするみたい。8人か……。  それぞれなりたい人とチームになるみたいだったから優花の手を引いて、唯月くんに声をかけた。 「ねぇ、優花と同じ中学だったんだって?初めまして、優花の親友、芹菜だよん!」 「ちょっ……芹菜」  優花の顔が赤くなるのが見えた。  あぁ……。優花は唯月くんのことが好きなんだなって改めて思った。 「お、よろしく」 「おっす、俺は圭太!コイツのマブ。よかったら俺らと組まないか?」  圭太と名乗る男の子は唯月くんの肩を組んで話してきた。  よし、圭太に乗っかれば唯月くんも捕まえられる。 「いいねいいねー!一緒に組もう!いいでしょ、優花」 「うん」  優花素っ気ない!照れててかわいい。  私達は男女比ちょうどの4人ずつだった。  私達は焼きそばを作ることに決まった。  それにしても唯月くん、近くで見ると格好いい。なんてね……。いや、違うから。  私は、優花の味方。  次の登校日、焼きそばの試食会だった。  よーし、張り切って作るぞー!  私は手際よく焼きそばを作ってみせた。  試食だから1人分を8人で分けて食べた。それを繰り返した。  私が作った焼きそばを唯月くんが美味しいって言って食べてくれた。  あぁ……。優花が唯月くんを好きになる理由がなんとなくわかる。 「あ、ソースなくなった」 「買いに行かないと……」  ソースがなくなったらしい。ソースがないと焼きそばつくれない。 「よーし、買いにいく人をくじ引きで決めるぞー!」  圭太が割り箸でくじを用意した。  私はこの時、あることに気づいてしまった。  圭太の右手と左手にくじが握られていた。  優花が取るときに印がついている割り箸が少し浮き出ているように見えた。  そして唯月くんがくじを引いたのは最後だった……。  というか、一番最後は圭太が残ったくじのはずだけど、印のついているほうを唯月に渡していた。  もしかして……。いや、まさかね。考えすぎ。  案の定、唯月くんと優花が行くことになったんだけどね。  次の登校日、看板とメニュー表を作った。  優花が唯月くんを目で追っているのがわかる。  なんだかこの状況、居づらいなぁ……。  私は少し複雑な気持ちになった。  唯月くんを好きになってはいけない。  そう思うと少し切ない。  トイレに逃げよう。 「ちょっとトイレ〜」  私は廊下に出た。  なんか疲れたな〜。  って、ん?なんか追いかけてくるような……。 「唯月くん?」  なんで、ここに唯月くんがくるかな。これじゃあ、本末転倒だよ。  しかも優花のことだから、唯月くんが私を好きとか早とちりして、勝手に恋の諦めモードに入ってそう。  親友センサーってやつ? 「あのさ、芹菜さん」 「ん?」 「俺さ……」  え、まさか、本当に私のこと……。 「優花のこと好きなんだよね」  一筋の希望が絶望に変わった。 「そうなんだ!」  いつも通り。明るく。  あぁ、優花。両思いだよ。よかったね。  私は嬉しいんだか切ないんだかわからないけど、泣きそうだった。  きっとこれは、嬉し泣き。そう思うことにした。 「それでさ……。ちょっと協力してほしい」 「協力?」 「というか相談。優花と文化祭まわりたいんだけどさ、どうしたらいいと思う?」 「え?普通に誘ったらいいんじゃない?」 「いや……その……えっと……」  優花に続いて唯月くんもシャイだったー! 「言葉が難しいなら手紙にすればいいんじゃない?一緒にまわろうってそうすれば?」 「でもさ、当日一緒に抜けるとこ見られるとなんていうか……」 「もー、シャイだなぁ。待ち合わせ場所決めたら?」 「おぉ!芹菜さん、頭いい。サンキューな」  唯月くんは戻っていった。  私も戻ろう。トイレ長い、準備サボってるって思われる。  始業式。任意の文化祭準備がある。きっとそこで前半と後半のチーム分けをする。  圭太がくじをつくってみんなに引かせてた。  あぁ……。この時確信した。  圭太は左手に赤い印、右手に青い印を持っている。 「割り箸の先、赤と青に分かれてるからな。俺、赤〜」  圭太が言う。 「あ、私も赤ー!優花も赤じゃん!やった!一緒!」  私が言うと優花が微笑んだ。 「俺、赤」  唯月くんがつぶやく。  まぁ、最初から、圭太が仕込んでたんだけどね。 「よーし、焼きそば、売りまくるぞー!」  今日は文化祭。人生初めての文化祭だもんねー!張り切らないと。  それに……。優花と唯月くんに協力するって決めたんだもん!頑張らないと〜。エイエイオー! 「ほーら、優花も唯月くんも、ボーッとしてないで呼び込みしてきて!」  私は優花にメニュー表、唯月くんにメガホンを渡した。  よし、これで優花と唯月くん二人きりの時間ができるよね。  それに、私が見ていないところで。  唯月くん、手紙、渡せるかな〜。今日書いてきてたみたいだけど。 「おっかえり〜優花、唯月くん!」 「ただいま」  優花と唯月くんが帰ってきた。  優花がバッグヤードに行く。これは、渡せたな。  私が唯月くんのほうを見ると微笑みかけられた。  うわ、不意打ち。これはまずい……。  私は反射的にバッグヤードに入ってしまった。  優花、ごめん。 「あー、ちょっと休憩」  そう言いながら休憩をするフリをした。  優花は急いで紙をポケットにしまっている。  優花、本当にごめん。でも私、こうしないと……。落ちそうだったから。なんて言えない。 「あ、優花。私と圭太で呼び込みしてくるから店番よろしく」 「え!う、うん。わかった」  もうしばらく離れてよう。自分の心に余裕を作ろう。 「圭太、呼び込み行くよ!ほら」  そう言って私は圭太にメニュー表を渡した。 「よっしゃ!はーい、みなさん!お腹は空いていませんか?ちょっと休憩したくないですか?そんな方は是非1Aの教室へ!」  私は叫びながら圭太の腕を引いて教室を出た。  階段の下、少し人通りの少ないところまで来たとき、圭太が口を開いた。 「あのさ、芹菜」 「なに?」 「唯月と優花ちゃんのことだけど……」 「……。気づいてるよ。私は」  圭太は言いにくそうにしてるけど、私は細工をしていることにとっくに気づいている。 「え、マジか」 「ソースの買い出しも、前半後半のチーム分けも」 「え、ソースも気づいてたのかよ」 「女の勘」 「じゃあもう話し早いな」 「私も応援するって決めてるから」 「そっか」 「文化祭一緒にまわって」  私は圭太を誘った。そのほうが都合がいい。 「あぁ、いいよ」 「最後に唯月くんに言いたいことがあるから」 「え……。まさか?」 「違うよ。告白じゃない。」  告白するわけじゃない。優花を応援する。そう決めたからこそ、言っておきたいことがある。 「なんだ。びびった。」 「圭太に頼みがあるんだけど」 「ん?何?」 「唯月くんさっき、手紙渡してたからこのあと一緒にまわると思うんだ。それでさ、1時くらいにどっかで優花達と1回合流したい。そこで唯月くん捕まえて話すから」 「わかった。じゃあ、1時に3Cのお化け屋敷来るように唯月に言っとく」 「お化け屋敷か……。いいね!ラブスポット」  こうして、圭太と作戦を練った。 「ただいまー。うわー、すごい列!」  私と圭太が戻るとすごい行列ができていた。  もうすぐ11時。前半と後半が交代される。  うわぁ……後半の子たち大変そう。 「おまたせ〜!交代しよってうわぁ、すごい列!」  後半のチームが戻ってきた。 「いや〜、たくさん呼び込んだよ」 「よーし、あとは任せて遊んておいで」  こうして前半と後半が交代された。  私達は時間まで文化祭を楽しんだ。 「あれ?優花と唯月くん!」  そして偶然を装って、圭太とお化け屋敷に向かった。 「芹菜!と圭太くん」 「ちょっと、唯月くん、こっち来て」  私は唯月くんの腕を引っ張ってパソコン室のほうへと向かった。  優花、ごめん。これだけ言っておきたいんだ。じゃないと唯月くん、告白しなそうだから。優花に……。 「ねぇ、唯月くん?優花のこと好きなんだよね?」  あぁ、唯月くんと二人きりだ。うっかり口を滑らせないようにしないと……。 「うん」 「優花に告白とかした?」 「いや、まだ……」  ほらね。 「告白しないと、優花の恋、消えちゃうかもよ」 「は、え?」  二人は両思いなんだよ。両片思いなんだよ。 「優花、あの子は唯月くんが私を好きだと思ってるっぽいし、優花諦めようとしたらそっちに傾いちゃうよ。両思いのうちにさっさと告白しな」  私は泣きそうだった。私の思いを心にしまって、唯月くんに話した。  私は言い終わったらすぐに走って優花達のところへ戻った。 「ごーめんごめんただいま」  明るく明るく。いつも通りに。  唯月くんと優花がお化け屋敷に入っていく。  はぁ、やっと心が落ち着いてきた。 「はーい、このライトをもって、入ってくださいね〜。さぁ……あなた達はこの屋敷を生きて帰って来られるかな……?」  あ、そっか。私達もお化け屋敷に入るのか。  心が忙しくて忘れてた。  中に入ると生暖かい風が吹いてた。  え、結構本格的。 「なぁ、なんか怖くね?」  圭太に言われる。 「いや、圭太がここにしようって言ったんじゃん」 「いや、恋愛スポットだと思ってよ。それに俺らも入ることに気づかなかった」 「えー!ちょっと」  いや、人のこと言えないけどさ。 「手、繋いでもいい?」  圭太が私に言ってきた。 「え、いいけど」  私達はお化け屋敷を出た。  あー、怖かった。 「芹菜!」  出た途端に優花が抱きついてきた。  まって、怖い怖い。優花ったら、私が今までどこにいたのか知ってる? 「え?優花、どうしたの?」 「ありがとう、芹菜。芹菜……」  あぁ、告白。されたんだな。よかったよかった。  よかった……。よかった。 「よし、優花、まわっておいで!彼氏と!」 「うん!本当にありがとう」  優花と唯月くんが去っていくのを確認したら私は思わず涙がこぼれ落ちた。 「え、ちょっ、芹菜?」  圭太が心配してる。 「お化け屋敷、そんなに怖かった?いや、怖かったけども……。とりあえずこっちいこう」  圭太は私の腕を引っ張ってくれた。  いや、お化け屋敷が怖かったから泣いてるわけじゃなくて……。 「どうした?」  パソコン室のほうに連れて来られた。  さっき、唯月くんと話したところ……。 「どうも、してないよ?」  私は泣きながら言った。 「もしかして、芹菜、唯月のこと……」 「言わないで!言ったら、そうなっちゃいそうだから……」  言葉にされると受け入れちゃいそう。だから私は心の奥にしまうの。 「ごめん。わかったよ」  圭太は黙って抱きしめてくれた。 「ありがとう」  ありがとう。圭太。
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