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身体を離したあと、今度はふたりお互いを見つめ合う。
菅野はかっこいい。その菅野が莉子を熱をもった視線でじっと見つめてくる。
菅野の手が莉子の耳に触れる。その手は莉子の頬にするすると落ち、莉子を上向きにさせたかと思うと菅野は莉子に唇を近づけてきた。
全く経験のない莉子でもわかる。
これはきっと、菅野は——。
どうしよう。ものすごく緊張する!
やり方なんてわからないから、思わずギュッと口を固く閉じた。
そこへ菅野がそっとくちづける——。
莉子にとって初めてのキスだ。まさかその相手が菅野だなんて……。
こんな奇跡は絶対に起こらないと思っていたのに……。
「莉子。お前、まだ俺に嘘をついてたな」
「えっ!」
(何?! いったいなんのこと?!)
菅野は何に気がついたのだろう……。
「莉子はキスもしたことがない。今のはもしかしてファーストキスか?」
「なっ、なんで……そんなこと……」
たしかに身体は緊張して強張っていたけれど、それだけでバレるの?!
「本当はドカタなんてやったことがない。そうだろ? 違うか?」
「なんでそんなことまでわかるの?!」
菅野は鋭すぎる。さっきのキスひとつでそんなことまで見抜いてしまうなんて……。
「経験もないくせに、会ったこともない平田なんかにOKだすなよ……」
「だって……」
平田に惹かれたから。平田は菅野に似ていたから。
「良かった……。もしかして、これ、莉子を変な男に取られないで済んだってこと……?」
「変な男って……。平田さんは菅野でしょ。平田さんはメールでも優しかったから……」
「じゃあ莉子は、俺の顔じゃなくて、中身を好きになってくれたってこと?」
「はぁっ?! なんでそんな話になるの?!」
「だって顔も見たことない平田の俺も、気に入ってくれてんだろ?」
菅野はものすごく嬉しそうだ。
「別にそういうわけじゃ……」
「ああ、莉子! マジで俺の彼女になって欲しい。もうお前しかいないわ。すっげえ好き」
こんなかっこいい男にこんなに熱烈に好きだと言われるなんて——。
「莉子!」
再び菅野に抱き締められる。菅野の腕の中はあったかいし、この頼もしい腕で守ってもらえたら、きっと怖いものなんてない。
あ。
でも、菅野の両親に会うことだけはちょっと……怖いかも……。
〈了〉
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