乾杯

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乾杯

「莉子。せっかくだから乾杯しよう」  菅野はシャンパングラスを持ち、こちらに向けてきた。  その仕草と、優しい笑顔が最高にかっこいい。  莉子は菅野と乾杯してからシャンパングラスに口をつける。びっくりするくらい美味しくて、ついつい飲んでしまう。それから目の前に出された最初の一口のスプーン料理をパクリと食べる。  白インゲンのピュレの淡白な爽やかさとスモークサーモンの塩気がたまらない。  思わず頬を緩ませた莉子を見て菅野は「すごく美味しそうに食べるね」とやけに嬉しそうだ。  こんな立場で菅野とこの店に来たくなかったなと思う。  菅野は莉子の憧れの人だ。  見た目がいいのにそれを鼻にかけることはなく、誰にでも親切でいつも明るい。コミュ力最強、成績優秀、テニス部の部長。モテ要素しかないような男だ。  あまりにも完璧すぎて、大学内でのライバルも多く、同じテニス部に所属しながらも莉子は菅野と距離を置いていた。  ハイスペック男が平凡な自分に振り向くわけがない。相当自分に自信のある女子しか菅野に近づけない。  大学のミスコンに選ばれるコや、可愛くてキラッキラのインフルエンサーのコ。菅野につり合うくらいハイスペックにならないと菅野に話しかけることすら恐れ多い。  そんな男とこんなレストランで食事をすることになるなんて思いもしなかった。これがパパ活でなくて、普通のデートだったら最高のシチュエーションだったのに。
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