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前菜〜パスタ
「なぁ、親父は一体お前に何の話をしてたんだ?」
やっぱり聞かれた。それ、聞いちゃいますか。
ここで前菜が運ばれてきて、話が中断する。お皿の上の芸術作品のような料理たちに心が躍る。
「た、食べよっか」
話を誤魔化したくて前菜に手をつける。菅野も莉子に倣って食べ始めた。
「で、さっきの続き。親父と何の話したの?」
食べながらもさっきの話を掘り返してきた。菅野は本当にしつこい。
「え、えーと、大した話はしてないの」
莉子は菅野のために黙っていてあげようと思っているのに。
「へぇ。例えば?」
しつこく聞いて後悔するよと思いつつ、答えることにした。
「息子がね、健康診断のときの採血で、注射針で自分の血を取られるところを見ただけで、貧血を起こして倒れたとか——」
「……っ!!」
菅野がカチャリと手にしていたカトラリーを皿にぶつけた。
「採血くらいで倒れるようじゃ、あいつは医者になれない、とか言ってたよ」
菅野の不名誉なことを暴露したら、案の定菅野は動揺している。
莉子は「よし!」と思わず心の中でガッツポーズをした。
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