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まだ死んでない
外はずっと薄暗いままで、今が夜なのかもわからない。ユナが寝る準備を始めたので、わたしも一緒に寝ることにした。
テントは二人寝れるギリギリの広さのため、必然的に彼女との距離が近くなる。何か話さないと間が持たない。
「ユナちゃんって呼んでいい?」
「……お好きにどうぞ」
彼女はくるりと背を向けた。返しは素っ気ないが、満更ではないとわたしは判断した。
「ユナちゃんはいつからここにいるの?」
「さあ、数えてないから」
あの旅慣れた感じは、少なくとも、それなりの時間を過ごしていると思われる。
「死後の世界にしては、不思議なところだよね。普通に疲れるし、お腹もすくし」
ユナは何も答えない。あまり話すのが好きではなさそうだ。わたしは本当に死んだのだろうか。実は生きていて、この世界に飛ばされただけという可能性もあるのでは。
「あの、ユナちゃん。つかぬことをお聞きしますが、わたしたち、死んでるんだよね?」
ユナは顔だけをこちらに向けた。
「変なこと聞いてごめん。なんだか実感沸かなくて」
「死んでないよ。……まだね」
どういう意味だろう。わたしは少し考えたが、考えるほどに混乱してくる。ユナはひとつ欠伸をすると、また向こうを向いてしまった。
「あのう、説明……」
彼女はすぐに寝息を立ててしまったので、わたしはしばらく眠れないまま悶々としていた。
翌朝、と言っていいかはわからないが、わたしが目を覚ましたとき、隣にユナの姿はなかった。
テントを出ると、ユナは焚き火に鍋をかけて何かをかき混ぜていた。
「おはよう、ユナちゃん。何作ってるの?」
「……おはよう。味噌汁だよ」
お母さんだ。この人は味噌まで持っているのか。
「わたしも手伝うよ」
「もう出来るから。顔でも洗ってて」
完全にお母さんだ。わたしはほっこりしながら水辺に向かった。両手ですくうと、水の冷たさにびっくりする。少し慣らしながらやっと顔を洗った。水の底に丸いものが沈んでいるのに気づいて、覗き込む。ヤシの実が二つ、沈めてあった。
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