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ビギナーズラック
雨宿りした場所から川にたどり着くまで、更に三時間ほど歩いた。河原にテントを張って、やっと一休み出来るかと思いきや、ユナはリュックから棒状の道具を取り出した。
「それ、何?」
わたしが隣で覗き込むと、ユナは二本の棒の片方をわたしに持たせた。伸ばしてみると、持ち手が折り畳めるタイプの網だった。ユナが持っている方は釣り竿のようだ。
「もしかして、釣り? 餌とかがいるんでしょ?」
「それで採るんだよ」
ユナはわたしが持っている網を指さした。
具体的なイメージを持っていなかった、自分が悪いのだ。わたしの許容範囲は、せいぜいミミズ位までだった。
ユナは網で川底の浅い場所をすくって、わたしに見せた。泥や石に混じって、ソイツはいた。
ユナが平気な顔で摘むそれは、小さなエビというか、大きいダニというか、とにかくゲジゲジした虫だった。
「餌って、そんなお姿なのね」
わたしは直視出来ずに後退りしてしまう。
「いいよ、無理しなくても。レミはテントで休んでなよ」
「そんなわけにはいかないよ」
ユナは手際よく虫を針に引っ掛けて、釣り竿を垂らした。釣りをまともにやったことはないので、結局わたしは隣で見ているしかない。
「釣れるかなぁ」
「気長に待つ」
川がゆっくりと流れる音は、雨音と同じく聞いているだけで心地よい。川の水も透き通っていて、キラキラと光っている。空を見上げると、いつの間にか太陽が登っていた。
「やっと朝が来たね」
ここに来るまで肌寒かったが、陽の光のお陰で大分ポカポカしてきた気がする。
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