ビギナーズラック

1/3
前へ
/28ページ
次へ

ビギナーズラック

 雨宿りした場所から川にたどり着くまで、更に三時間ほど歩いた。河原にテントを張って、やっと一休み出来るかと思いきや、ユナはリュックから棒状の道具を取り出した。 「それ、何?」  わたしが隣で覗き込むと、ユナは二本の棒の片方をわたしに持たせた。伸ばしてみると、持ち手が折り畳めるタイプの網だった。ユナが持っている方は釣り竿のようだ。 「もしかして、釣り? 餌とかがいるんでしょ?」 「それで採るんだよ」  ユナはわたしが持っている網を指さした。  具体的なイメージを持っていなかった、自分が悪いのだ。わたしの許容範囲は、せいぜいミミズ位までだった。  ユナは網で川底の浅い場所をすくって、わたしに見せた。泥や石に混じって、ソイツはいた。  ユナが平気な顔で摘むそれは、小さなエビというか、大きいダニというか、とにかくゲジゲジした虫だった。 「餌って、そんなお姿なのね」  わたしは直視出来ずに後退りしてしまう。 「いいよ、無理しなくても。レミはテントで休んでなよ」 「そんなわけにはいかないよ」  ユナは手際よく虫を針に引っ掛けて、釣り竿を垂らした。釣りをまともにやったことはないので、結局わたしは隣で見ているしかない。 「釣れるかなぁ」 「気長に待つ」  川がゆっくりと流れる音は、雨音と同じく聞いているだけで心地よい。川の水も透き通っていて、キラキラと光っている。空を見上げると、いつの間にか太陽が登っていた。 「やっと朝が来たね」  ここに来るまで肌寒かったが、陽の光のお陰で大分ポカポカしてきた気がする。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加