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「あなたも死んじゃったの? わたしはトラックに轢かれちゃったみたいで」
努めて明るく話してみるが、よく考えれば、悲しい出来事のはずだ。わたしはまだ死にたくなんかなかった。現実離れした場所にいるので感覚が麻痺しているのだろうか。
「……わたしは自分で」
ポツリと彼女がつぶやいた。
「それって……」
と言いかけて、わたしは口をつぐむ。自殺だろうか。それ以上聞いてはいけない気がした。
片付けを終えると、彼女はまとめた荷物を背負って歩き出した。
「ねえ、荷物重いでしょ、半分持つよ」
「いい」
彼女はわたしの申し出を素早く断ったが、見た目にも辛そうだ。
「よくないよ」
少し強引に彼女のリュックに手をかけ、引き止めた。
「迷惑かも知れないけど、あなたに置いていかれると、迷子になっちゃうの。荷物ぐらい持たせて」
わたしがついてくることを嫌がられるかも知れないと思っていた。予想に反して、彼女は素直にリュックを下ろして、テントの袋だけを肩に担いだ。
「任せて。体力には自信があるんだから」
* * *
大見得を切ったのに、この体たらくなのは重々恥じている。しかし、リュックが思った以上に重たかったのだ。
「何が入ってるの、このリュック」
わたしは息を切らしながら、彼女についていく。我ながら、ここまでよく頑張ったと思う。マラソンで慣らした体力も限界に近い。そんなわたしに気づいたのか、彼女が振り返って、立ち止まった。無言のまま、少し先を指差す。彼女の指先を追うと、そこにはヤシの木の下に水辺が広がっていた。
「オアシス? やった!」
わたしは俄然元気になって、彼女を追い抜いた。
砂漠とはいえ、太陽が出ていないので、どちらかといえば寒い。しかし十キロ以上はありそうなリュックを背負って歩き続け、体は水分を欲していた。水面に顔を映すと、疲れ果てたわたしの顔と目が合った。透き通った水を両手ですくい、隣の彼女をチラと見る。
「これ、飲んでも大丈夫よね?」
今更体の心配もないだろうが、お腹を壊すのは嫌だ。彼女は答える前に、とっくにボトルに移して飲んでいた。
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