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水を飲んで落ち着いたわたしは、小さめの岩を見つけて腰掛けた。水面に月が映り込んでキラキラとゆらめいている。空はずっと同じ位の薄暗さだ。もっと上を見上げると、ヤシの実がいくつかなっている。
「あれ、食べられるのかなぁ」
わたしがボソリとつぶやくと、水を汲んでいた彼女が近づいてきた。リュックから手袋と、金具のついたベルトを取り出している。彼女は手袋をはめて、ベルトをヤシの木に回して固定させた。
「何してるの?」
彼女はベルトから出ている金具に足をかけ、同じ要領で足場を作って木に登り始めた。
「えっ、何してるの?」
わたしが慌てふためくのを他所に、彼女はどんどん登っていく。あっという間に実のなっている所まで到達してしまった。
「ねえ、危ないよっ」
「あなたこそ危ないから、そこどいて」
彼女はヤシの実に手を伸ばして、ナイフでちぎって落としてきた。ドシンと重量感のある音がして、ビックリする。
実をいくつか落とすと、彼女は素早く降りてきた。手近な岩の上で実のひとつの頭を割って、ストローを刺してわたしにくれる。
「もしかして、ココナッツジュース?」
なんて頼れる人なんだろう。わたしは感動しながら飲んでみた。薄味だが、ほんのり甘い。飲み終わると、彼女がヤシの実を二つに割ってくれた。白い果肉が現れる。スプーンですくって口に入れると、ぷるぷるした食感が楽しいが、薄味過ぎて物足りない。
「冷やして食べたかったね」
「そこの水の中に沈めておけば」
彼女はそう言うと、テントを広げ始めた。
「ここでキャンプするの?」
「この先長いから。休めるところで休む」
わたしも手伝って、テントを設置しながら考えた。ご飯はどうするんだろう。ヤシの実しかないけれども。死んだ身だし、食べなくてもいいのかもしれないが、ちょっと寂しい。
彼女はいつの間にか焚き火を始めていた。さっき汲んだ水を使って飯盒で米を炊いている。どこに持っていたのか、魚に串を刺して、焚き火で焼き始めた。程なくして、香ばしい香りが漂ってくる。
「あのう、それ、わたしも食べていいの?」
「……別に食べなくてもいいけど」
「食べたいです」
彼女のリュックからは色んなものが出てきた。折りたたみ式の小さなテーブルに、食器とお箸が二組。彼女は、炊きたてのご飯をよそってくれた。
「ありがたき幸せ。この御恩は必ずお返し致します」
わたしは手を合わせて、拝んだ。白ご飯についている焦げ目が食欲を掻き立てる。焼き魚を一口かじると、香辛料の辛味が効いていて、臭みが無く食べやすい。こんなに美味しいと感じる食事は初めてかも知れない。
「美味しい。本当にあなたに会えて良かった。えっと……」
彼女は向かい側で黙々と食べていたが、視線に気づいてチラリとこちらを見て答えた。
「……ユナ。わたしの名前」
そのとき、彼女の頬が少しだけ赤くなっているような気がした。
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