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温泉に浸かっていると、体が温まって、少し気持ちにも余裕が出てくる。ここに温泉が湧くことはともかく、明らかに人が入れるように手が加えられていた。わたしは不思議に思ってユナに尋ねた。
「ねえ、この温泉、誰が作ったの?」
「……わたし」
意外な答えが返ってきた。
「前来たときに作ったんだよ」
「そっか、三回目って言ってたもんね」
ユナがこの場所に詳しいのは、何回か来たことがあるからなのだ。この世界で目を覚ましたときの心細さを思い出す。わたし一人だったらここにたどり着けたかどうかも怪しい。
ユナの横顔をチラリと見る。彼女がいることがなんと心強いことか。わたしは心の底から安心しすぎて、ちょっと涙ぐんでしまった。自分でも驚いて、慌てて湯で顔を洗う。
「……ひとりは心細い、か」
ボソリとユナがつぶやいたのが聞こえた。それはわたしに向けた言葉というより、独り言のように思えた。
「……聞いていい? この世界の旅が三度目なら、二回は出口にたどり着いたんだよね」
「逆だよ。二回失敗してるの」
この旅の失敗とはなんだろう。わたしは嫌な予感がして、それ以上は突っ込んだ質問は出来なかった。
「……出口にたどり着けずにリタイアしたら、希望を聞かれるんだよ。次の旅で必要なものはあるかって」
「それが支給品?」
ユナはうなずいた。
「一回目に貰ったのが、そのサバイバル道具一式」
ユナはテントを側に置いているリュックに視線をやった。道理で何でも揃っているわけだ。
「二回目は何を貰ったの? 乾燥豆腐じゃないよね」
わたしが聞くと、ユナはなぜか視線を泳がせた。
「……言いたくないなら、いいんだけど」
ユナには色々と複雑な事情がありそうだ。今のわたしには彼女しか頼れる人がいない。無理強いはしたくなかった。
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