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雨の匂い
ユナいわく、次の目的地は、西の方角。半日ほど歩くと川にたどり着くらしい。
「よくわかるね、地図もないのに」
わたしはユナの言う方に目を凝らしてみたが、砂漠が続いているのみで何も見えない。
「ポイントごとに方角を押さえてるだけだよ」
この人は、人間コンパスだ。ユナがいなかったら、とっくに行き倒れている自信がある。
「ユナさん、わたしから離れないでね」
「置いてなんかいかないよ」
ユナははっきりと言い切った。なんて男らしいお言葉だろう。
「……荷物がなくなると困るもの」
わたしは口を尖らせた。もちろん、荷物持ちでもなんでもやるつもりではあるのだが。この旅は文字通り、持ちつ持たれつだ。メインのリュックと、テント一式が入ったバッグを交代で持ちながら、わたしたちは歩みを進めた。
二時間ほど歩き、疲れて足元ばかり見ていたら、突然ユナが立ち止まった。わたしは背中にぶつかりそうになるところで踏みとどまる。
「どうかした?」
ユナは空を見上げて、雲の流れを観察していたが、何も言わずに近くの木陰にわたしを引っ張っていった。
わたしが不思議に思っていると、程なくしてポツポツと雨が降り出した。
「すごい。よくわかったね」
「雨の匂いがしたから」
ユナに言われて、空気の匂いを嗅いでみたが、わたしにはよくわからない。そのうち、雨は本降りになった。あのまま歩いていたら、荷物ごとずぶ濡れになっているところだ。ひとまず、わたしとユナは並んで木に寄りかかって、空を眺めた。
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