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海との決別
ほの明るい波の音色が心の芯を震わせる。
夕陽と共鳴する様に海原は呼吸をし、
その夕陽に染った波を以て
僕から重力を奪おうとする。
その動きは安堵感を与える様で、同時にこの海から関心を倦む原因となってしまった。
別に構わないだろう、と声を伝えなければ。
この海の懸命な努力を裏切る決意を確固たるものとしなければならない。
何故だか生まれた劣等感と共に海を振り返ると、
そこには、鯨がいた。
大きな、他の何に例えようも無い程の生物。
いいや、それはもはや物体と化している。
生命を全うし、この世界に、この海という世界に美しく、そして儚いながらに足跡を残す事を貫き通す為に必要だった血液が灰色の巨体に溢れ、口は大きく横に開いていて夕方がその奥に呑まれそうだった。
否、その奥には太陽がいた。
____いいや、僕は還らないさ。
無価値だと自ら嘲笑してしまいそうな程に掴み所の無い自己主張だという事位、分かっていた。
自分でもこの生まれた体を今すぐに砕きたい気分だった。
その腹の中に戻りたかった。
突然、日が眼中を支配した。
奥まで釘をゆっくりと差し込まれた様な、押し込まれた様な感覚に堪らず目を細める。
鯨は、消えていた。
紺青色に染ってゆく雲
そしてその先で消えていく空
____もう星は光っているのだろうか
何だか少し怖い。
お陰でその場を振り返る事すら出来なかった。
先刻の下らぬプライドなんか忘れていた。
陸を選んだのは僕自身だというのに。
そのまま黄昏と宵の狭間に暫く立っていた。
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