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朝早くに目が覚めてしまったから、少し、眠い。
私は倒れるようにソファに横になった。
やろうと思っていた片付けもあらかた終わってしまった。リビングの端に置かれた段ボールが目に入る。中に入っている雑多なものたち。文庫本、ハンドタオル、switchのソフト、彼のおすすめのDVD、紺色の折り畳み傘……ほかにもこまごま。目を閉じて入れ忘れたものはないかを想い浮かべていくと一緒になって想い出まで蘇ってくるのが憎らしい。
この部屋には彼のものが思っていたより多く、あった。
気にしていなかった。気にしないようにしていた。最近は、特に。
うつらうつら、身体が眠りに、沈んでいく。手のひらで両の耳を覆った。ざーっと流れる音が、雨音にすこしだけ、似ている。
私は、雨の日がとても好きだった。
「お前さぁ。調子悪いならベッドで寝たら?」
「やだ……ここがいい」
「…あ、そう」
ソファでうつ伏せになる私の頭の隣にどさっと座る彼。
こんなとき膝枕なんて絶対にしてくれない。
顔をクッションにうずめたままチラッと目だけをあげる。彼はつまんなそうな顔でスマホを触ってる。いつもの私だったら「スマホやめてよ」とか言うけれど、今日はそんな気持ちにもなれなくて、目を閉じてまた顔を伏せた。
「なんか欲しいものある?」
「ない」
彼がそばにいる気配。それだけで、いい。
「そう」
ぽんっと頭に置かれた手。そのままふわふわと撫でてくれる。ちいさく聞こえてくる音楽。
「何見てるの?」
「YouTubeの……音楽?の、急上昇一位のやつ」
「ふぅん、見たい」
のそのそ体勢を変えて、彼の方ににじりよる。画面が見えるように体を起こそうとした。
「あーいい、いい。頭痛いんでしょ?動くなって。テレビにするから」
彼がスマホを置いてリモコンを取る。ボタンを操作すると、画面にミュージックビデオが映し出された。
「これが今人気なの?」
「らしいわ」
「ふぅん」
横向きになって、テレビを見る。流れる優しい歌声。またさりげなく頭に置かれた手。
「いい曲だけど、悲しいね」
「そう?」
それは失った恋を偲ぶ女性歌手の歌だった。綺麗な声で紡がれる、悲しくて、切ない、想いたち。
私たちにはそんな日が来ないといい、な。
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