それは覚悟。

1/1
前へ
/34ページ
次へ

それは覚悟。

『長の座』を降りてから、更に約8年が経った… 私は『光希(みつき)だけを一緒』に連れて行動した。 もう数年前から、既に子供達からも離した。 移動を済ませた後、『厳重な結界』を。 私の思考も、術も『全て』使って構築した。 これならば、一族からも、外部からも、『全て』から… 『光希(みつき)には』触れる事すら出来ん。 そして、私が絶対に叶えてよう。 あの『願い』も… 銀楊(ぎんよう)は様々にある『全ての高位術』を複雑に応用した。 更にと思考もしながらだった。 そうして構築したからこそ、誰にも場所すら判らない。 全てから『隠し続ける』中でもだった。 銀楊(ぎんよう)は、『光希(みつき)の側』にと居た… ************************** 銀楊(ぎんよう)は『後見』としてだった。 今は『新たな最高議会』の場に居るが… その『内容のみ』だけを聞き、目を閉じ、思考だけをする。 今はまだ『私から』は何も言ってはいけないだろう… 新たな議会の半数以上… 既に『選抜』で、光希(みつき)の子ばかりだ。 女児も問題すらない。 最初から… 『後見』としてだが。 私から、青嵐(せいらん)にと『指摘』もしている。 更に青嵐(せいらん)が気付けない部分も教えている。 その上で、青嵐(せいらん)も、皆もだが。 精進すらも忘れずに… 青嵐(せいらん)が、業務も含め『新世代を』纏め上げてる。 既に充分でもあるのにも関わらず… 銀楊(ぎんよう)は、そう。 かなりの苛立ちを圧し殺していた。 それは未だに、まだ… ずっと『内乱の傾向』も出続けて、更になのだ。 銀楊(ぎんよう)は、すぐに気付き。 青嵐(せいらん)にと『指摘』もしている。 そんな中でも、愚かな妖狐も出るばかりの状態にだった。 常に銀楊(ぎんよう)は、気付き『指摘』もする。 そして規模が大きい時には、銀楊(ぎんよう)も動いていた。 それでも尚、変わらない『妖狐族』に。 既にもう… 銀楊(ぎんよう)は苛立ちを隠すのも『限界』にもなっていた。 どうにか、それを顔には出さず。 『今の議会中』でも、また気付いて苛立ちが湧く。 銀楊(ぎんよう)は内容も聞くが、すぐに『判断』もした。 勿論、青嵐(せいらん)達も常に思考し、動いていた。 必死にと行動すらしてる様子も銀楊(ぎんよう)は判る。 それが『判る』からこそ、もう… 銀楊(ぎんよう)は『怒り』を隠しながらだった。 青嵐(せいらん)にと。 『長の青嵐(せいらん)』に言う。 『鎮圧』する為にと、『常に銀楊(ぎんよう)』が動いた。 銀楊(ぎんよう)は思う。 こんなにも『愚かな恥』など、私が消してやる!! そして、この議会の際でもだった。 すぐに銀楊(ぎんよう)が気付き『指摘』した。 その『指摘』で青嵐(せいらん)も気付く。 そして皆が、動き、議題として纏めていたが… それは、また『内乱の動き』でもあった。 銀楊(ぎんよう)は『怒り』をどうにか圧し殺す。 皆が、必死にと動く姿を、銀楊(ぎんよう)も見た。 更に今回の内容を聞き、既に『内乱の規模も』判った… 銀楊(ぎんよう)は、そこで『我慢すら限界』もなった。 その場で、すぐに動いた。 私は端的に言った。 「青嵐(せいらん)。 私が行こう。」 青嵐(せいらん)は、また思う。 それは『1つだけ』でもある。 また父上が!? すぐに察して言った。 「っ!? ですが、父上!! また『1人で行く』と!? 今回も、かなり数が…」 顔には一切、出さずに、銀楊(ぎんよう)も淡々と言う。 「判っている。 …すまないが。 行く事を『許可』してくれないか?」 青嵐(せいらん)は、すぐにまた察する。 「…父上?」 それにも判る銀楊(ぎんよう)だったが。 どうにか顔にも出さず、変わらず、また淡々と言うのみ。 「今の『長』は、青嵐(せいらん)だ。 私はあくまで、『後見』。 …だが、『指示を出して』欲しい。」 銀楊(ぎんよう)は思うだけでもある。 隠して居ても、もうどうにも出来ん!! 既に青嵐(せいらん)も私には不審に思ってるだろうが。 それでも私が… 銀楊(ぎんよう)は、また、どうにか『怒り』も隠す。 そして『返答のみ』を待った。 青嵐(せいらん)も父上の様子には気付いて居るのだ。 でも、判らない!! なぜ、『全てを隠す』ような… けれど、父上の言動には『違和感』もだが… 「なぜ… 最近は、少し。」 銀楊(ぎんよう)は、すぐに言った。 「判っている。 だかな。 私が『我慢している』のを、ぶつけたいだけだ。 …指示を。」 青嵐(せいらん)も、すぐに思考もする。 最善策も、そう… 確かに、父上が鎮圧をするのが早い… その事実にと、青嵐(せいらん)も判る。 でも… 目を閉じて、青嵐(せいらん)は言った。 「…判りました。 鎮圧を。」 そんな様子を見て… 銀楊(ぎんよう)も『判る』からこそだった。 「あぁ、いつも、すまないな。 青嵐(せいらん)。」 「…いえ。」 そのまま、私はすぐに転移をした。 ************************** 転移した先に着いた銀楊(ぎんよう)は簡単に見渡す。 やはり、ここから来たか… つくづく思うが、『愚か』過ぎる。 銀楊(ぎんよう)は、『それ』を見てだった。 尚更、もう『怒り』が抑えられない。 簡単に、相手の場所や数を『確認』する。 数は約450~500か。 『私から』したら、大した事もないか。 すぐに『判断』も、思考する。 私は、そのまま『敵陣の真ん中』にと転移した。 相手も気付いた様子だが… もう遅い!! 私は一気に風の高位応用術を、複雑に解き放った。 竜巻のように『全員』を巻き込む。 そして残った者すら容赦なく消す。 銀楊(ぎんよう)は、そんな高位応用術を使いながらもだった。 怒りが湧き上がりながらも思う。 こんなにも弱く、愚かな妖狐など。 この先になど… 光希(みつき)の子供達が、先へと。 『正しい道』へと必死に進もうとしてるのに… それすらも邪魔するのであれば、私は許せない!! ただ、怒りをぶつけるように… 一気に複数の高位術を使う。 そして『全員を消滅』させた。 銀楊(ぎんよう)は大きな溜め息しか出なかった。 その時間は、たったの約10分程度。 敵を『全て』消して、また思う。 こんなにも弱いだけの、愚か者が… 絶対に、許せる筈もない!! あの『光希(みつき)が命を』削り… やっと、新しい世代が落ち着き、その皆すらも。 更に精進しながらも先へと。 進もうとしているにも関わらず… それを邪魔するならば… 許せる筈などない!! 銀楊(ぎんよう)は、1度、また。 どうにか『怒り』を、圧し殺した。 敵は全て消滅させた。 だが、怒りを抑えても、苛立ちは残る。 銀楊(ぎんよう)は首を振った。 それでも今は、まだ… 鎮圧を終え、再び転移して戻った。 それは僅かであり、1時間も経たずに全てが終わる。 転移し戻った時に、青嵐(せいらん)にと言った。 「青嵐(せいらん)、終わった。」 「!?」 青嵐(せいらん)は驚くのもあるが、すぐに判った。 な、もう!? それは高位術で、更に威力までも… どれだけの力を… 銀楊(ぎんよう)は、すぐに目を閉じて思考した。 そしてそのまま、端的に言った。 「私は1度。 戻るが、構わないな?」 そう、青嵐(せいらん)は知らないのだ。 今の光希を。 今の場所を。 ************************** 銀楊(ぎんよう)は、早くと思いながらも。 すぐに議会をしてた部屋から出た。 いつもと同じようにと動く中でだった。 「父上!!」 青嵐(せいらん)は、ずっと気になってる事でもある。 それは父上の様子もだが。 どう考えても、理由も判らない事も。 それに父上が普段居る場所すらもだ。 『全て』が詳しく判らない事に。 あれだけの父上の様子。 可能性があるならば『母上』だが… 銀楊(ぎんよう)は端的に言う。 「どうした? また、問題か?」 青嵐(せいらん)は、すぐに思考する。 この場では父上は端的にしか言わない。 仕事や、立場もある。 だからこそだが… どうにか青嵐(せいらん)も言葉を濁して言う。 「いえ、今のところは、計画通りです。 ただ… 『母上』に。 何か、あったのではないですか? 最近の父上は… どこか…」 「光希(みつき)は、私が居るから… 問題はない。」 青嵐(せいらん)は明らかに父上がだ。 そして言動にも気付いてた。 父上がどう考えても変だ。 何をしてもだ。 様子が、おかしい!! 苛立ちがあるのも明らかだ。 それに母上に関しても… これは『結界』も含めてしてる行動だ!! 居場所すら判らない。 更に父上の、この動き… 『判らせない』ようにしてるのもだ!! これでは… 『わざと』会わせないようにしてる!! その様子を見て、銀楊(ぎんよう)は察する。 少し思考し、簡単に言った。 「…青嵐(せいらん)。 ならば、落ち着いた頃に、呼ぶ。」 「!?」 「その際は、連絡をする。」 「はい。」 ************************** 私は、すぐに『光希(みつき)の側』と戻った。 そして優しく触れる。 光希(みつき)の頬を… そして確認もする中で… 思う事も『光希(みつき)だけ』だった。 呼吸はしているな… 最近は、もう… 数ヶ月に『1度』程度しか起きないが。 でも、これは… 光希(みつき)の『最後の願い』でもある。 ならば、私は叶えよう。 けれど私は、それでも… 僅かに起きた時でも良い。 光希(みつき)の側に居たいんだ… きっと『感』だろうが… 光希(みつき)が、こうなる前に言った事を思い出す。 『子供達には、心配させたくないから… 私と銀だけの、2人だけの場所に行こう?』 私は、また光希(みつき)にと。 触れながら言った。 「私がきっと、あの時に、気付かせたのだろう? 光希(みつき)… 私は…」 続きを言えず、私はそれでも『光希(みつき)』にと触れる。 今更だが、あの後から… 光希(みつき)は少し… そう思いながらも、光希(みつき)の側にと。 ずっと居た。 ************************** 銀楊(ぎんよう)は『青嵐(せいらん)のみ』に連絡をした。 もうすぐ、青嵐(せいらん)が来る頃だろう。 そう思いながらも、結界の側にと。 常に光希(みつき)からは離れずに待って居た。 「父上っ!?」 その急いで来た様子に気付いて言う。 「あぁ、悪いな。 忙しい中でだろう?」 青嵐(せいらん)は確かに業務を全て振り分け。 急いで来たのもあるが、驚愕する。 こんな場所に!? それに、これは… どれだけの『結界』だ!? 青嵐(せいらん)は息を整えながらも思考する。 そこは妖狐一族でも使われない。 『孤島』でもあった。 理由は簡単でもあるのだが… 地形も含め、小さい事もある。 更に全てが絶壁だからこそなのだ。 そんな中で『1つだけ』の家と… この『結界』は、何だ!? 全く判らないぞ!? どうにか、父上を見て言う。 「いえ… 父上が、そうするならば。 『母上の件』でしょう!?」 銀楊(ぎんよう)は思う。 まだ、この若さで、あれだけを纏めている。 更に精進も、ずっと続け随分と。 青嵐(せいらん)自身も強くはなったが… 経験だけは仕方がないだろう。 だが、鎮圧ばかりしてる私には気付いたか。 それに… これも『今後の為』だろうな。 銀楊(ぎんよう)は端的に言う。 「青嵐(せいらん)。 着いて来い。」 「はい!!」 私は結界を僅かに開け、2人で家にと入る。 青嵐(せいらん)は久しぶりに見た。 そこには前と『全く姿すら』も変わってない。 美しい姿の母上が寝ていた。 「は、母上っ。」 「もう2か月だ。」 青嵐(せいらん)は、すぐに私を見た。 「なっ!?」 私はまた淡々と言う。 「今の光希(みつき)は数ヶ月に1度。 僅かに起きるだけだ。 身体には、問題ない。」 「っ!? では、やはり…」 「青嵐(せいらん)しか、まだ誰も知らぬ。 それと、これは『光希(みつき)から』の言葉だ。」 改めて、言葉を聞こうと青嵐(せいらん)は父上を見る。 私はそれすら淡々と言った。 「光希(みつき)の言葉、そして願いだ。 『子供達には、心配かけたくない』と。 『私と2人だけの場所に』と。」 !!? は、母上が… そんな… ならば、あれは、父上が嘘を言ったのか!? 青嵐(せいらん)は、すぐに思い出す。 そう、あの日、急に父上が言った事を。 皆が暮らしていた場所からだ。 そこから移動する際に、父上が言った事を… 「光希(みつき)の行きたい場所があるから。 しばらく、ここから離れる事になる。 だから、この家は皆が好きに使え。 …それと、1つ。 光希(みつき)からの言葉だ。 『また少ししたら、一緒に。』と。 だから、呼ぶまでは誰も来るな。」 その後、確かに行き先も皆が判らなかったが… でも皆は『父上が居る』なら大丈夫だと。 そして皆も気を使い、敢えて聞かなかったのだ。 青嵐(せいらん)は瞬時に思った。 話が違う!? そんな青嵐(せいらん)を察して言った。 「知ってるだろう? 青嵐(せいらん)光希(みつき)は嘘を言わん。 あれは、『私の』だ…」 青嵐(せいらん)は改めて、また母上を見る。 そして涙が… 涙が勝手に溢れた。 だが、青嵐(せいらん)は止められなかった。 銀楊(ぎんよう)は、その青嵐(せいらん)にも向かず。 家の入り口の方を見ながら、感情を抑え、話し出す。 「皆は、消耗を知らない。 知っているのは、私と青嵐(せいらん)のみ。 ならば… 離すしか、ない。」 青嵐(せいらん)は、それで… 「だから… 最近、あんなにも…」 そんな青嵐(せいらん)を見ないでだった。 銀楊(ぎんよう)は話を続けた。 その声は、何もないように、淡々と… 「私はな。 許せないだけだ。」 「っ!?」 「私が、ここに連れてきた事も。 青嵐(せいらん)達が正しい道を行く邪魔をする輩も。 …光希(みつき)が。 命を削ってまで、産んだ子の邪魔など、させたくもない。」 青嵐(せいらん)は気付く。 そしてまた、父上を見た。 今っ!? その言葉は… 銀楊(ぎんよう)も察した。 全部をと、話すつもりでもあるからこそ、続けた。 「青嵐(せいらん)は知らない事だろう。 私がなぜ、光希(みつき)を知っているか。 そして、なぜ、『連れてきた』か。 だろう?」 そう、まさに、そこだった。 けれど青嵐(せいらん)は何も言わなかった。 父上がまだ、何かを話そうとする事が判ったからだ。 そのままの姿勢だが、銀楊(ぎんよう)は言った。 「私はな… 光希(みつき)が、『産まれた時』から… 知ってるだけだ。」 !? 青嵐(せいらん)は動揺する。 何だと!? それでも銀楊(ぎんよう)青嵐(せいらん)を見なかった。 「光希(みつき)が産まれた時。 やはり一族は、すぐに攫おうとした。 『私がそれ』を、力で、ねじ伏せただけだ。 そして18年間。 せめて、人の世に産まれたならばと。 その人の世でも、『常に私が』守って居た。 そして産まれてから、18年が経ち。 『私がここ』に、妖狐の世界に、連れてきた。」 青嵐(せいらん)には言葉も出ない。 それでも思考だけは止めずに聞く。 「だから、光希(みつき)は人を疑わない。 悪意も知らない。 危険を知らない。 それらは『私が全て』排除した結果でもあった。 だが、ここに連れてきてからだ。 光希(みつき)は、『初めて』狙われる恐怖を知った。 最初はそう、私が自覚もさせた。 それからも、ずっと守ってきた。 だから子供達は誰も知らない。 『光希(みつき)』を、私が知ってるのは… 常に判るのは、当たり前なだけだ。」 青嵐(せいらん)は何とか理解は出来ても… どうにか出した言葉も上手く続かなかった。 「では… ずっと。 産まれた時から…」 銀楊(ぎんよう)は目を閉じた。 そのまま続けた。 「あぁ… だがな。 だからこそ、私は『後悔』もしている。」 「っ!?」 「最初、ここに連れて来たのは、『私だから』だ。 私が先に気付いていれば… 身体だけの消耗ではないと、見抜いていれば。 これだけの、負担も、させなかっただろう。 私はずっと、見てきたのに… 歴代の違いに気付いたのも、そうだ。 ここに連れてきたばかりの頃は、気付いてなかった。 ただ、『愛する事』をした。 歴代のようには、したくなかったからだ。 だからこそ、私は『光希(みつき)の心』を求めた。 そして受け入れて貰えた時に、歴代の違いに気付いた。 それもだ。 これは『言えない真実』だと、すぐに気付いた。 だからせめて、負担も減らそうとしたが… 光希(みつき)は私の子を産む為に、こんな『代償』を。 受ける事に、私は見抜けなかった… もう『私が、私を許せない』だけだ。」 青嵐(せいらん)は思う。 違う!! 父上のせいではない!! 今までが逆なのだ。 気付ける筈もない!! こんな、『真実』など… 青嵐(せいらん)は動けずに… それでも父上の話を聞く。 銀楊(ぎんよう)も動かずに続ける。 「私が判っていたら… 連れてこなければ… そうなれば、妖狐は絶滅。 けれど産まれた『子』は皆が天才児。 ならばと、基盤をと、邪魔者すら、常に消した。 女児を産む前を… お前も、知っているだろう?」 また青嵐(せいらん)は、すぐに記憶が蘇る。 母上と初めて会った、あの夜!! だが声が、どうしても上手く出なかった。 「っ!」 銀楊(ぎんよう)は動かなかったが察した。 「そうだ。 あの時に、私は青嵐(せいらん)に警告したな。 だが、あの怒りは、お前だけにではない。 あれは、私自身への、怒りだ。 あんな愚策でしか、避けられなかっただけの事。 光希(みつき)がなぜ、強い子を産むかを、皆が知らん。 既に身体の負担があるのに、それも私しか、知らん… 私が出した、愚か過ぎる策にも、周りは気付かん。 ずっと、守って居たにも関わらず… たった3年だ。 それも傷を付ける結果。」 銀楊(ぎんよう)は目を閉じたまま続けた。 「これは予測だが… あの後、暗示に気付いたからだろう。 だから、『光希(みつき)』がだ。 『女児を望んで』産んだのだろう。 意図して女児を産んだ時すらも… 死ぬかもしれないにも関わらず… それすらも、私は見抜けなかった…」 青嵐(せいらん)に、また衝撃が走る。 そんな事すらも構わずに銀楊(ぎんよう)は続けた。 「そして女児を産むからと、また『光希(みつき)』にと群がる。 そんな愚か者すら、まだ居た。 けれど、青嵐(せいらん)が纏めた事で… そんな中でどうにか、暮らせていたにも関わらず。 私がそれでも、気付けてなかった。 そして些細な事から、私は『仮説』を出した。 その事にどうにかしようとして… 青嵐(せいらん)に調べさせた。 だが、私は仮説が明らかになった時。 なぜ、妖狐が『長命』であるかすら判った。 それは女児への代償を。 『本来の形』ならば、成り立たせるからだ。 そして私は、光希(みつき)に産ませない為にも。 長を譲り、光希(みつき)を遠ざけた… それすらもだ。 既に遅過ぎただけの事。 こんな結果になるならば… 私が先に気付き、見抜けていれば… 変わっていたかもしれない案は、今なら浮かぶ。」 動かないが感情的になり、銀楊(ぎんよう)は声だけを荒げた。 「だからこそだ!! 私は、私が許せん!! そして産まれた子の邪魔など、更に許せん!!」 銀楊(ぎんよう)は、またどうにか圧し殺す。 感情を、けれど続けた。 「これだけは言える。 妖狐族は、滅びるのが当たり前だ。 こんな記録すらもなく、更にずっと愚かな道を続けた。 だが、少なくとも… 光希(みつき)が産んだ命ぐらいは、守るしかない。 犠牲になった歴代も同じだ。 正しい方へと、流すしか、私には出来ん。 今の妖狐など、『恥』ばかりでしかない!!」 銀楊(ぎんよう)は、ようやく少し身体を動かした。 そして、光希(みつき)の方を見て言う。 「私は、『光希(みつき)の最後まで』は、ここに居る。 だが、青嵐(せいらん)達が正しい方へ行くならば… 手を貸している。 その後は、好きにすれば良い…」 銀楊(ぎんよう)は下を向いた。 そしてもう、思うままを完全に言い切る。 「私はもう… 限界だっ!!」 青嵐(せいらん)は初めて聞く。 こんな父上の声を… 下を向き、顔すらも隠す姿を。 そして、この話を『全て』聞き… 青嵐(せいらん)すら、判った。 どれだけの『痛み』かを。 「ち、父上…」 そんな、ずっと… 痛みすらも、ずっと隠し続けて… 青嵐(せいらん)は、もう、その痛みを、苦しみを。 どうにかしたいが、判らない… 銀楊(ぎんよう)は、そんな青嵐(せいらん)を見る。 そして、ふと、また光希(みつき)を思い出す。 「不思議な話だな。 青嵐(せいらん)。 私はな、光希(みつき)には何も言わなかった。 仕事の事すら、光希(みつき)は聞こうともしない。 けれど、ここに来たばかりの頃だ。 光希(みつき)は、見抜いたんだ… 私が痛いのは嫌だと、泣いた… あの結界をした家でも同じだった。 何も言ってないのに、光希(みつき)は気付く… 青嵐(せいらん)の暗示にも、すぐ、気付いた。 そして私にまで、光希(みつき)は気遣った。 私のせいではないと気付き、許して、どうにか私にと。 そんな光希(みつき)を、死なせたくなくて。 あの時すらも、かなりの無茶な事をしたが… 結局、全部が!! 私の子の為にと、光希(みつき)を削り続けてた!!」 青嵐(せいらん)は鮮明に思い出す。 「っ!」 あの母上の泣き顔を。 あの痛みを隠す父上を。 青嵐(せいらん)は震えながらも、下を向いた。 そして思わずにはいられなかった。 どれだけ、俺は!! 何も、気付けてなかったんだ!! 18年も守り、その後もずっと守り… 最初にまた… 傷付けたのは、俺じゃないかっ!! っく。 どうにも出来ない後悔しか浮かない。 今ならば、なぜ… あの父上が、母上だけ特別かなんて、明確だ。 産まれた時から、守り続けてたのだから。 銀楊(ぎんよう)は、そんな様子も察した。 だから、もう『本心』を言った。 「青嵐(せいらん)、最後に言っておくぞ?」 青嵐(せいらん)は、その声で僅かに顔を上げた。 銀楊(ぎんよう)は全て言うつもりだった事もある。 だからこその『本心』をだった。 「お前が悪い訳ではない。 私が最初に、光希(みつき)を。 姫を望んだのは、もう『500年以上』も前だ。」 なっ!? 青嵐(せいらん)は更に衝撃を受ける。 そんな青嵐(せいらん)を見て、銀楊(ぎんよう)は、また目を閉じて言う。 「私はな… 自分の母を、見た。 『壊れた母』をな。」 青嵐(せいらん)は愕然となる。 それはっ!!? ま、さか… 銀楊(ぎんよう)は、目を閉じて、僅かに思い出すが… どうにか、そのまま言う。 「あぁ… そうだ。 繁殖にと、使われた母だった。 それを見た時からだ。 私は、あの母を見てな。 許せなくもなった… そして、その壊れた母にと誓った。 私は『こんな選択』はしないと。 それから長を目指し、更に力を高め続けた。 そんな中で、ずっと姫を待った。 そして産まれた姫が、『光希(みつき)』なんだ。」 っ!? 誓ったと… それで、母上を… 銀楊(ぎんよう)は僅かに目を開けた。 けれど、その目は余りにも… 何も見てない、そんな中でもだった。 「だからこそ、私は繁殖に使いたくないと。 光希(みつき)の心を、どうにかする為にと、した結果だ。 青嵐(せいらん)のせいでもないのだ。 私の方が、18年間。 光希(みつき)を知ってるのだ。 最初、私は光希(みつき)の心を求めたのもあるが。 どうにか思考しながら、どう動けば良いかを。 そして守る為にもだ。 その結果、光希(みつき)も、私へと向いてくれた。 確かに、喜びは強かった。 だが、どうだ? 結果として私は、光希(みつき)の命を削り続けていた… 余りにも、愚かな結果だ… 最初に気付いていれば、見抜いていれば… いくらでも変わってた『光希(みつき)』を。 ここまで削り続けたのが、『私自身』だ。」 銀楊(ぎんよう)は、また下を向いて、感情を圧し殺す。 「青嵐(せいらん)は… 私のようには、なるな… 少なくとも、姫の同意、そして時間もある。 妖狐は長寿、ならば歴代も、光希(みつき)の犠牲もなく。 進める筈だ。 だから、全てを話しただけだ。」 青嵐(せいらん)にとって、この話は衝撃的過ぎた。 そんなっ!! 500年以上も!! ずっと… ずっと、痛みにすら耐えていたのか!! そんな事を… 青嵐(せいらん)は父上すら見れずに目を閉じた時だった。 ふと、頭の中に母上の笑顔が浮かんだ。 それで青嵐(せいらん)は気付く。 これは… 違う!! そこで青嵐(せいらん)は、やっと思考も巡った。 そして目を閉じたままだが、父上にと言葉だけだが言った。 「違います… 父上…」 違う、だと? その言葉で、銀楊(ぎんよう)青嵐(せいらん)を見た。 青嵐(せいらん)は目を閉じたままだった。 「母上は、確かに命を削ってたかもしれません。 自覚もなく、していたかも、しれません。 でも… それは、違う!!」 その時に青嵐(せいらん)が目を開けて父上を見た。 銀楊(ぎんよう)の方がだった。 その言葉が、意味が… 判らない…!? 青嵐(せいらん)は思い出す事もあったからだった。 だから、判った!! 「母上は、父上を本気で愛していた。 父上だって、それは判る筈だ。 そんな母上が、今の… 今の父上を見たら!! 何て言うか、判るでしょう!!」 銀楊(ぎんよう)の方が思考が巡らない。 けれど動揺する。 青嵐(せいらん)は思考を続けならが、それでも言った。 「あの母上を、俺は確かに父上より… 知らないかもしれない。 だけど、母上は、父上だからこそ!! 父上の為ならと… 父上しか、求めていなかった!! 俺じゃない。 父上にと、手を伸ばした… 忘れてなど、いない筈です!!」 銀楊(ぎんよう)は、それであの日の夜を思い出す。 それでも… 思考が巡らない。 青嵐(せいらん)は思い出す。 だから、強く言った。 「あの時、俺は知った。 母上は、父上だけを愛していた。 父上だけに『心を』許した。 あの母上が、父上がどんな策をしようと… 父上よりも… 母上が、父上を愛した結果だっ!! そんな母上が、今の父上の姿や、言葉を聞いたら… どうなるか、判らないのですか!?」 「っ!?」 青嵐(せいらん)は、父上の目を見た。 「絶対に、あの母上なら… 今の父上を見たら泣く。 今の父上の言葉を聞いたら… その方が、あの母上は傷付く!!」 銀楊(ぎんよう)は動揺した。 ずっと自分を責めていた。 にも関わらず… 青嵐(せいらん)の言葉に、何も言えなかった。 「確かに、母上は身を、命を削っていた。 けれど、それは『父上を愛していた』からだ!! 父上だけを思って、父上の為にとしていたのに… それなのに、今、そんな言葉を。 母上が起きた時に、言えるのですか!?」 「っ!?」 青嵐(せいらん)は涙を拭い、父上を見た。 明らかに動揺しているのが判った。 「今の言葉を、後悔を。 母上が目を覚ました時に、言えますか? 言えないでしょう!! 言ったらどうなるか、父上なら判る筈です!!」 銀楊(ぎんよう)は驚愕する。 青嵐(せいらん)の言葉は、その通りなのだ。 僅かに起きた時に、あれを、言ったら? 光希(みつき)は… 「俺はこれからも、絶対に変えるとも。 父上の前でも『誓った』事も。 それも、忘れましたか! 母上ですら、俺を選んだ。 父上ですら、俺を選んだ。 だから俺は絶対に、正さなきゃいけないんだ!! あの母上が愛して、更に父上が愛してなければ… 俺は産まれて居ない!! その2人が… まして、父上が、母上にそんな事を言える訳がない!! そして母上すらも、そんな父上を、見たら… 絶対に泣くに決まっているっ!!」 銀楊(ぎんよう)は何も言えなかった。 青嵐(せいらん)の言葉は、正しいからだ。 「っ!?」 青嵐(せいらん)は涙を堪えて父上を見た。 500年以上もずっと耐えて… それでも、母上と!! 「母上だって、同じだとっ!! 『犠牲扱い』だと!! 父上が言って良い筈がない!!」 青嵐(せいらん)は感情が溢れ、一気に妖気も出し、威圧をした。 「っ!?」 銀楊(ぎんよう)は僅かだが、耐えられなくないが一瞬、圧された。 それにも自分自身、驚くが… どうしても思考の方が、巡らない。 そんな青嵐(せいらん)は父上を完全に睨んで大きく言った。 「例え、父上でも、『母上の侮辱』など許さない!!」 銀楊(ぎんよう)は咄嗟に防御術を出した。 「っ!」 防御は簡単だが、内心、動揺したままだった。 青嵐(せいらん)の言葉に、反論できない。 けれど… 僅かに言う。 「…光希(みつき)が。 泣く…? だが、…っ!!」 銀楊(ぎんよう)は感情が抑えられなかった。 反射的に、すぐに高位術を使い、青嵐(せいらん)に出してから言った。 「っならば!! 光希(みつき)に、どう謝れば良い!!」 だが青嵐(せいらん)は、その高位術を弾いた。 「っ!?」 銀楊(ぎんよう)は、やはり動揺する。 そんな青嵐(せいらん)は言い切った。 「謝れば良いのではない、『逆』だ!!」 青嵐(せいらん)も一気に、高位術を銀楊(ぎんよう)へと出した。 動揺はしていたが、銀楊(ぎんよう)も咄嗟に弾いた。 術は大した事もないが、動揺はしたままだった。 逆…だと? 「母上に、言う言葉は謝罪じゃない! 母上が求めているのは、父上の… 『父上の感謝』だっ!!」 青嵐(せいらん)は感情的になり、特殊すらも纏った。 更に高位術を使って父上にと出した。 それに銀楊(ぎんよう)はすぐに気付き、咄嗟に防ぐ。 「っ!?」 銀楊(ぎんよう)は弾くが、でもこれは反射的な事だけだった。 思考が巡らない、追い付かない。 単純な反射行動なだけでもある。 でも僅かに言う。 「…感謝、だと?」 銀楊(ぎんよう)は、まだ上手く思考が巡らない。 そんな父上を見ながらも、青嵐(せいらん)は言い切る。 「愛していて、愛されたにも関わらず… 母上が求めているのは、謝罪じゃない!! 違う!! 母上ならば、絶対に父上を責める訳がない!! あれだけ信じて、あれだけ愛していた。 そんな父上の姿を、見たら、母上が悲しむだけだ!!」 そこで銀楊(ぎんよう)は、目を閉じた。 言葉なども浮かばないが… 「………」 銀楊(ぎんよう)は、光希(みつき)の事を。 何度も記憶を浮かべ、何度も思い出す。 そして、思考の結果を… 「…すまなかった、青嵐(せいらん)。 確かに、光希(みつき)は、泣く、な… 私は…」 青嵐(せいらん)も妖気を下げた。 深呼吸をして、父上を見たままだった。 銀楊(ぎんよう)は、そして少し目を開ける。 答えを出した… 「そうだな… 光希(みつき)が、泣く、な。 あぁ… 青嵐(せいらん)の方が、正しい、な。」 私も『覚悟』をしなければ、ならないのか。 そこで、ようやく、思考が巡る。 そんな父上を、青嵐(せいらん)は涙を耐えて言う。 「父上… ずっと、母上が起きないから… 悲しむのは、判ります。 でも、今の父上を見たら… 母上はもっと、悲しむ…」 その姿を見て、銀楊(ぎんよう)は、また目を閉じる。 様々な思考を巡らせる。 光希(みつき)なら… 光希(みつき)だったら… そしてゆっくりと目を開けてから、呟く。 「そうだな… 光希(みつき)が… 悲しむのは、見たくは、ないな。」 銀楊(ぎんよう)は思考して出した結果でもあった。 そして出された、答えでもあった。 「判った。 私も… 『覚悟』を決めよう。」 そう、光希(みつき)が望むものを… 「私は… 『光希(みつき)が』だ。 望む道を、繋げたものを。 私が、守ろう…」 銀楊(ぎんよう)は、それでも、やはり『光希(みつき)の事』を。 考え出した行動と、思考の答えだった…
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

80人が本棚に入れています
本棚に追加