色彩を君に

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「どう、凄いでしょ」 「えぇ、凄い、こんなに大きな絵を見たのは初めてです」 「驚くのはまだ早いよ。さて、人に見せるのは久々だね、腕がなるよ」  凄いと思うのと同時にやはり残念な気持ちもある。色彩の魔女と呼ばれる所以と言うぐらいだ、さぞかし素晴らしい色合いの絵なんだろうなと考える。 「でもすいません、実は僕色が……「そう!良いところを指摘するね。この絵色がついてないでしょ。それはわざとなんだ、見ててくれ」  僕が色を見えてない事を伝えようとすると、集中した様子のエレさんは食い気味に僕の話に被す。先ほどまでの大人っぽい話し方とは一転して、声色が明るく、何処か子供っぽくも見える。  そして、先ほどのように杖を出して色の膜に包まれる。でもさっきまでとは違い、色も濃く、色は一色ではなく様々な色で構成されていて、七色っていうのはこう言うのを指すのかなと僕はその姿に見惚れる。 「私は色彩の魔女、キャンバスよ色をふきかえせ『リ・レセット クレォー』」  彼女がそう唱えると同時に、彼女の後ろから大量の蝶々が群れを成して飛び出してくる。その蝶は先ほどの彼女が包まれていた色のように、様々な色の蝶が混ざっている。その蝶達は自らが何処に向かうべきなのかを理解しているように、迷いなくキャンバスの上へと散らばって行く。  ああ、何て素晴らしい日なのだろうか。異世界に来たことも、魔法を見たこともとても素晴らしい体験だった。でも僕は何よりもこの光景を忘れることはないだろう。  蝶の群れは徐々に消えてゆき、そして最後に残ったのはキャンバスに咲いた一輪の花であった。白と黒だけの世界にそこだけは色が塗られ、これでもかと言うほどに花はその存在を主張している。 「どう?凄いでしょ!これが私の全力で渾身の出来の作品だよ」  そう言って彼女は僕に駆け寄ってきた。 「…………ッ」  僕は涙が止まらなかった、ああ、色って素晴らしいな。今ある感情はただそれだけだった。 「何で泣いているの?そんなに感動したのかい?」 「そうだね……今まで生きてきた中で一番感動したよ、素晴らしい作品をありがとう」 「そ、そんなに褒められたら照れるじゃない。でも泣きそうなほど感動した人は居ても、実際泣いたのは君が初めてだよ」  そうだろうとも、僕のこの感動は多分誰にも理解できない。ただキャンバスに色がついただけじゃない、僕の世界に色が塗られたんだ。  僕は生まれて初めて、本当の意味で絵の素晴らしさを理解した。
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