リスタート

4/4
前へ
/27ページ
次へ
 さて、でもこの屋敷に僕が見た蝶が入っていったのは確かだ。鬼が出るか蛇が出るか、怖くないといえば嘘になるがここまで来れば行くしかあるまい。  心を奮い立たせ前に進み、屋敷の入り口の前にまで近づく。屋敷の周りには塀のようなものもなく、何処からこの屋敷の敷地なのかよく分からない。  近づく事でより一層その屋敷の大きさを実感する、テレビや本で屋敷や豪邸が紹介されてるのを見たことはあるが、実際に近づくとビルやタワーマンションとは違った凄みを感じる。 「すいませーーん!誰か居ませんか!」  僕はノックをしてから大声を出す。人の気配は感じないが、出来ることなら誰か出てきて欲しい。加えるなら優しい人であれば望ましい。  しかし、思いとは裏腹に中から返事はなく依然として屋敷の重厚感が目の前からのしかかってくる。  その後何度か声を上げて、ノックをするも何の反応も帰ってこない。  さて、普通ならここで一度帰り再度訪れるのが礼儀なのだろうが、僕には帰る手段がなく。そもそもここが何処かも分からないのだから仕方あるまい。  意を決して、扉を開こうとする。その時―― 「こんな所で何をしてるのかな」  そう言いながら僕の肩にポンと手を置かれる。僕は驚き飛び上がる。まるで心臓を掴まれたようだ。さっきまで後ろに人の気配なんて無かったはずなのに。僕は恐る恐る振り返る。  次の瞬間、僕は背後に立つ人の容姿に目を奪われた。  美人だ、美人なお姉さんがそこにいる。汚れを知らぬ、白い肌に軽くウェーブの乗った髪、筋の通った高い鼻が顔全体のバランスを整えてる。  そして、何よりも僕はその人の瞳に魅了された。此方を見透かすかの様な冴え冴えとした、知的な瞳に見つめられ僕は言葉を失う。 「どうしたんだい?固まってしまって。そんなに見つめられると照れてしまうよ」  彼女の言葉に冷静さを取り戻し、状況を確認する。  とんがり帽子に、少し擦れたローブをつけて左手には杖のようなものを持っている姿は惑うことなく、絵本に出てくる魔法使いそのものであった。魔法の杖と言うよりかは、老人がつく杖のように見えるが、持ち手の上の部分にある巨大な宝石のような物がファンタジー感を醸し、魔法使い感を引き立てている。  しかし、僕はそれよりも彼女の後ろに漂っている色の塊に目を奪われた。先ほどとは違い蝶は1匹や2匹ではなく群れを成して集まっている。 「後ろの……後ろのそれを追いかけてここまで」 「……ふぅーん、へぇー君面白いことを言うね。君はこの人工魔精が見えるって言うんだ」 「人工……魔精?」 「ふむふむ、納得した。だからここに辿り着いたのか。いやはや実験で少し街に放ってみたら、予想外の者を連れてくることになるとは」  彼女が何を言っているのか分からないけど、どうやら何か納得したらしい。それにどうやらいきなり敵対すると言った感じでも無さそうだ。 「さてさて、聞きたいことは山ほどあるが折角ここまで来たんだ。歓迎しようじゃないか、ようこそ色彩の魔女の館へ」
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加