回遊処女

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12話 ◉ゲームセンター  今日は一日中アリーナと2人きりになりたかった。とくに理由はないけど、強いて言えば桐谷くんに見られるのは恥ずかしい程アリーナを好きになっていたから。  僕は、アリーナと遊びに行ってくるとだけ書き置きして桐谷くんが起きる前に宿を出た。アリーナは一足先に出ていた。着替えをヴェロニカの所に取りに行くから宿の入り口で待ち合わせとしたのだ。  行き先は決めてない。ただ2人で歩いていたかった。  途中で”何か飲み物を提供してくれる所”ということだけは分かる店を見つけて、暑かったのもあったし。 「アリーナ、休んでくかい?」と聞いた。 「アリガトウ。じゃあ少し、休みたい」  ほんの小さなことだけど、気を利かせたつもりだ。というのも、僕はまだ喉は乾いてないし、さほど疲れてなかった。  でも、小さいアリーナは疲れたかもと思えた。  アリーナに優しく。アリーナを大切に。そういう気持ちがこの時自分に強く芽生えていたのを覚えている。  少し休憩すると、また歩き出した。  道の角にゲームセンターのようなものがあった。僕は興味津々でそこに入りたそうにしていたらしい。  アリーナが「入ってみたいなら入れば?」と言ったくらいだからよほどだろう。    そこはゲームセンターと同じ作りのように見えた。が。よく見るとコイン落としのゲームのゲームコインが現金だ。当時、日本円にして100円の価値のある10香港ドル硬貨をゲームコインとして使っている。  店内にびっしり置かれている一見するとコインゲームに見えるその全てが、現金を入れて現金が出てくるものだった。さすがマカオ。面白い。  僕たちはそこで30分ほど遊んで、また歩き出した。2人手を繋いで歩く。それだけで僕は楽しかったし。彼女も眩しいくらいの笑顔だった。  アリーナ。僕のアリーナ。娼婦になるなんて、嘘だろう。  先のことを考えるとつらかったので今だけは今のこの夢のような時間に文字通り夢中になった。
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