序-歯車は回る-

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序-歯車は回る-

 ──ここは【ダイヤモンド・タウン】。 巨大な鉱山に囲まれたこの小さな街は大層賑わっていた。ここは鉱山がある故、様々な鉱石が採掘される事で有名だ。特に多く採掘されるのが名前の由来となったダイヤモンド。そのダイヤモンドのお陰で街は繁栄している。  さて、そんな小さな街だがあちこちエリアが分かれている。一つは貴族や富豪達が住む『ひかりのまち』、もう一つは普通の民が住む『かぜのまち』。他にもエリアが存在するが【ダイヤモンド・タウン】ではこのエリアをメインに話を進めていく事にする。 「んにゃ……もう食べられないよぉ……」  『かぜのまち』にあるボロボロで、取り壊される事が決まっているアパートに彼は一人住んでいる。りんごの木箱をベッド代わりにしすやすやと眠っている。このアパートの窓ガラスは半分割れており風がそよそよと部屋の中へ入っていく。夏はほんの少し涼しく、冬は寒い。けれどそんなアパートを彼──カービィは気に入っている。  先も述べた通り窓ガラスが半分割れている為風通しがいいうえに、自分以外誰も住んでいないから歌を歌っても苦情が来る事もない。更に屋上があり、そこに小型飛行機、【ワープスター号】を停められる事。 「おはようカービィ!」 「んにゃ……?」 玄関の扉を開けたのはゴーグルをかけた緑色の帽子を被っているワドルディだ。彼の帽子は所々継ぎはぎがあるのが特徴である。このワドルディは『かぜのまち』にある工場で働く整備士でカービィの友達だ。  そんな彼に気づいたカービィは眠りから覚め、目を擦る。寝起きというのもあって若干表情が怖い。 「なに〜……?」 「昨日のレース凄かったね! 昨日で何連勝だっけ……。──はい、サンドイッチ」 「やったぁ! ……デデデ社長とのレースだよね、百連勝はいったかな」 「やっぱりカービィは凄いなぁ。デデデ社長も操縦上手だけどちょっと乱暴なんだよね……。力いっぱいレバー押すから飛行機すぐ壊しちゃうし」 「でしょでしょ! 社長より僕の方が操縦の腕は上だからね。次のレースも勝って、今度はコックカワサキのデラックスランチを奢ってもらうんだー!」 ワドルディが持ってきたサンドイッチを頬張りながら自慢気に語る。眠気はすっかり覚めドヤ顔だ。  ──さて、彼等の会話に登場したデデデ社長というのは『かぜのまち』にある飛行機工場……【デデデ工場】の社長で、カービィのライバル。そんな彼等はよくレースをしているのだ。 「……あ、そうだ。今日は面白い話を聞いたんだよ」 「面白い話?」 「この街に引っ越してくる人がいるんだって」 「新しい人?」 「うん。確か画家さんだったかな。後……そのお友達も一緒に来るみたい。──ほら、最近新しいアパートが出来たでしょ。そこに住むらしいんだ」 「ふぅん」 カービィは半ば興味なさ気に聞く。  この『かぜのまち』は陽気なヒト達がひしめき合って暮らしている故か噂が結構広まりやすい。やれ誰かさんの晩御飯事情だの、やれ話題になってきているお宝の話等……。噂好きの住人達はきっと今日も賑やかな事だろう。 「それともう一つあるんだよね」 「もう一つ?」 「うん。ほら見て、今日の新聞に載ってるこの記事」  新たな住人以外に情報を持ってきたというワドルディ。新聞を広げある記事を指す。そこには。 「『ダイヤモンド鉱山にて古代機械発見か』。だって」 「へぇ〜」 「なんでも鉱山で偶然発掘されたみたい」 「ふーん」 「調べたら願いを叶える不思議な古代機械らしいんだ。でも肝心のパーツが無いから動かないんだって」 「はぁ」  そこでコレだよ、と新聞の記事を指す。無いのはどうやら三つの歯車らしくそれが見つかれば機械は動くとあるのだ。そしてその歯車を全て見つけた者には莫大な賞金が与えられる。 「賞金?」 「うん。えーっと……『歯車を全て見つけた者には百万ポイントスターを与える』。──百万ポイントスターかぁ。服も帽子も沢山買えるし美味しいご馳走もお腹いっぱい食べられる……!」 「ごちそう」  「ご馳走」と聞いた瞬間カービィの目の色が変わった。 一番高いデラックスランチをお腹いっぱい食べられる。食べるのが大好きなカービィが食いつかない筈もなくワドルディの手を握りブンブンと振る。 「わわわっ!」 「ご馳走食べられるの!?」 「た、多分……。でもどの道歯車を見つけないといけないんだけど」 「じゃあ歯車探しに行こうよ! ほら善は急げって言うでしょ、行こ行こ!!」 「ちょ、ちょっと待ってよカービィ! 情報も無いのにどうやって探すのさ」 「あ、そっか」 うーん、と頭を掻く。 探しに行こうと意気込むのはいいが肝心の情報が無い。これはどうしたものか、と考えてると扉を叩く音がした。カービィが玄関の方に行き扉を開けると。 「あ、マホロアだ」 「やぁカービィ! 久しぶりダネ!」 「今日も薬を売りにきたの?」  マホロアは薬の行商人であちこちの街に行って薬を売り歩いている。カービィも風邪を引いた時、マホロアの薬のお世話になった事がある。 「違うヨォ。……ヨイショ、お邪魔スルね」 部屋に上がりトランクを床に置きその上に座る。ぽかんと呆気に取られたカービィとワドルディだが、何の用かと尋ねた。 「ホラ、最近話題になってる歯車ノ事ダヨ。ナンデモ見つけたヒトには莫大なオ金をクレルんデショ?」 「新聞を読んだけどそうみたい。……という事はマホロアも探してるの?」 「ウン。オ金があったら薬ヲ作ル研究所ガ建テラレルし、小型飛行機だって買エル。何ナラ遺跡調査スル為の資金ニモ充てられる。凄イと思ワナイ? 百万ポイントスターあればナンデモ出来ルンダヨォ!」 指折り数えた後、両手を広げて語るマホロア。お金があれば叶えたい夢が広がるのだ。 「そこで僕は思ッタンダ。僕達が力を合ワセタラ歯車を見つけラレル……ってネ! ホラ、『三人寄れば文殊の知恵』ッテ言うデショ? 僕ダケじゃなくてカービィ達もいたら歯車ナンテあっと言う間に発見出来ルに違イナイヨォ! ドウ? 悪くナイ案だと思ウンダケド」 「うん、いいよ。確かにそっちの方が早く見つけられそうだもんね」 「えっ! だ、大丈夫なのカービィ……?」  あっさりと承諾したカービィを心配するワドルディ。いきなり押しかけてきたマホロアを全面的に信用する事は出来なかった。きっと裏があるに違いないと睨んでいる。  けれどカービィは「人数多い方が見つけやすいでしょ」と返す。ぐうの音も出なくなったワドルディは渋々彼等に協力する事を決めた。 「でも肝心の歯車の在処が分からないんだよね。歯車って言うからそのまんま歯車の形をしているんだろうけど、具体的にどんな物かとか」 「フフーン。実は僕、歯車探しのヒントを知ッテルんダヨネ」 「え? 知ってるなら君一人で行けばいいんじゃないの? どうして僕達に声をかけたの?」 「ノンノン、ワドルディ。そこがポイントなんダ。ヒントを知っていても生カセナカッタラ意味が無い。歯車ヲ探す為にはカービィが持ッテル、ある道具が必要ナンダヨ」  何となくカービィとワドルディはマホロアの前に座る。マホロアは人差し指をくるくると回し話を続けた。 「僕ハ薬売りの行商人ダケド、古代の魔法トカも研究シテルンダ。その発掘サレタ機械にツイテ調べたら分カッタんダケド、どうやら歯車ヲ盗ンダ悪い魔法使いがいたラシイんだ。その魔法使イは歯車に封印の術ヲかけたんダッテ。その術で封印サレタ物は普通ノ目では見えなくナッチャウ、厄介なモノなんだ。──ケドね、魔法に反応スル道具ガあれば共鳴シテ、封印サレタ物を見つけられるンダ」 「魔法に反応する道具? 僕そんなの持ってないよ、それに魔法なんて使えないし……」 「君、確か【星のコンパス】持ッテタヨネ?」 「え? う、うん……。──ちょっと待ってね、確か……」 カービィは積み上げられているガラクタをかき回しコンパスを見つけた。ワドルディは「可愛いコンパスだね」と呟いた。 「イイなイイな〜、それトッテモ貴重な物ダカラ凄く欲しカッタンダヨね。僕達研究者ナラ誰でも欲しがる一品なんだヨォ。【ダイヤモンド・タウン】の飛行機乗りが持ッテルって聞いて、羨マシイ! ってなったもん」 「そうなの? これ、前に魔法ギルドのお爺さんがくれたんだけど全然動かなくて方向が分からないんだよね」 「お爺さんが?」 「うん。魔法都市で暴れてた魔物をやっつけてくれたお礼に、って」 「そのヒト、魔法ギルドの長老サンでトッテモ偉いヒトなんダヨ。──ヨイショ、っと。見ててネ」 トランクから紙包を取り出し、包みを開けるとキラキラとした砂が入っていた。どうやらこれで魔法陣を描き中心にコンパスを置くと動くらしい。 「地図、持ってきた方がいいよね?」 「ソウだね、お願いスルヨォ」  ワドルディは鞄から街の地図を取り出し床に広げた。  ──やがてピクリともしなかったコンパスの針がゆらゆらと震え始める。コンパスは星の煌めきの様な淡い光を放つ。 「凄い! 動いた!」 「後は呪文を唱エルト……。──よし、分カッタ。ココだ!」  呪文を唱えながらコンパスを地図の上に置くと、コンパスは一層光を放ち針はある角度を示した。そしてまたある角度。さらにある角度と合計三回。  これ等は三つの歯車の位置だ。ワドルディは指された場所にペンで丸を付けた。 「これがコンパスの力……」  「ウン。【星のコンパス】は封印サレタ──魔法をかけられた物の場所を示シテクレル不思議な道具なんダヨ」 「えーっと、一つ目は……。あ、ココってカービィ達がよくレースしてる原っぱじゃない?」 「えっ、そうなの!? なんだ、意外と近い所にあるじゃん」 まず一つ目の丸印の場所はカービィとデデデ社長が飛行機レースのゴールとしている原っぱだった。 「あれ? でも確か普通の目じゃ見えないって……」 「ソウイウと思って持ッテ来たんダヨ。──ジャジャーンッ! 【魔法の目薬】ィ〜!」 トランクから取り出したのは小さな瓶。 「め、めぐすり?」 「ソウダヨォ。この目薬は僕と僕ノ友達が一緒にナッテ開発した凄イ薬ナンダ! サッキも言ったケド、術をカケラレタ歯車は普通の目では見エナイんだ。ソコで!」 「分かった! その目薬を使えば歯車が見えるようになるんだね!」 「流石カービィ! その通りダヨォ! ……そうそう思い出シタ。触レタ歯車は誰デモ見える様にナルって本に書イテあったんだヨネ」 「凄い便利だね」  でしょでしょ、と誇らしげなマホロア。 協力者にも手伝ってもらったこの目薬は我ながら素晴らしい出来だと言う。 「それいいね! 僕も──」 「オット。本当はあげたい所ナンダケド、僕は研究者の端クレで商人だ。タダじゃあげられないンダヨ、だって研究費欲しいカラネ。二つセットで……そうダナ、三百ポイントスターでドウ? お得ダヨォ!」 「結局売りに来てるじゃん」 「さ、三百ポイントスターか……」 「コレ、本来は一つ五百ポイントスターで売ッテルんだよ。今回は僕が持ち込ンダから出血大サービスとしてコノ値段にシテルんだ。二つセットで三百ポイントスターはお買イ得ダト思わない?」 「い、言われてみたら確かに……!」 マホロアの巧みなセールストークにワドルディは押されている。カービィは財布を取り出しいくらあるのか数え始めた。 「この目薬がアレバ歯車が見エル様にナルンダヨ? まぁ効果は一時間ダケド」 「「買った!」」 「ワォ! 毎度アリ〜!」 ポイントスターを受け取りご満悦のマホロア。そして目薬を渡し先の注意事項を述べた。 「早速行こうよ! ワドルディ、マホロア!」 「うーん、僕はこれから仕事シナクチャいけないから無理ダヨ。この薬、今ナラ沢山売れそうダシ狙うなら噂が広まってる時がチャンスだからね」 「成程」 それじゃあね、と荷物をまとめ部屋から出る。重そうなトランクを引きずりながら。  彼が去った途端、まるで嵐の後の様に静まり返った。 「まずは原っぱでしょ。次は……」 「『時計台』だ。でもそこには番人がいるから迂闊に近づけないよ」 「最後は……」 「『ひかりのまち』にあるみたい。『ひかりのまち』は僕達『かぜのまち』に住む住人は勝手に行けないからなぁ。ここは後にするしかないや」 「厳しいよねー! お土産のお菓子なんて街の入口で没収されちゃうし」 「お菓子かぁ……。いいなぁ……」  ムスッと不満気な表情を浮かべ足をパタパタさせる。カービィは小型飛行機であちこちの街を行って美味しいスイーツや料理を食べた事がある。  ──この『かぜのまち』は甘いお菓子なんて滅多に手に入らない。甘いお菓子は高級品とされ、『ひかりのまち』に住む貴族くらいしか口にした事がない。カービィがお土産に買ってきたお菓子は街の入口の番人によって没収されてしまう。許可なくお菓子の持ち込みは禁止されているのだ。ワドルディは甘いお菓子なんて食べた事がなく、カービィの話を聞いて想像するのだ。 「そういえば発掘された古代機械って願いを叶えてくれるんだっけ。僕はデラックスランチ十万人前を食べたいけど、ワドルディはどうなの?」 「えっ?」 「願い事。何かないの?」 「ぼ、僕は……えっと……」 目線をウロウロさせ、また恥ずかしそうに目を閉じる事も。 「お菓子が食べたい。特に、その……"チョコレート"っていうお菓子」 「ワドルディ……」 「美味しいんだろうなぁ。少しでもいいから食べてみたいなぁ」  ──そんな事言わずに沢山食べようよ! カービィは手を広げそう言った。
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