序-カフェのランチセット-

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序-カフェのランチセット-

 ──丁度お昼頃。小さなカフェに客がやって来た。 店長とその店員は客を席に案内し、店員は水を差し出す。 「いらっしゃいませ、デデデ社長。ご注文は?」 「そうだな。ランチセットでパン大盛りな」 デデデ社長と呼ばれた男──『かぜのまち』にある飛行機工場の社長で飛行機乗りでもあるのだ──はこのカフェの常連客だ。小さなカフェだがご飯とコーヒーが美味しいと評判を得ている。彼はメニュー表を見て日替わりランチセット──今日はハンバーグらしい──写真を指して注文した。 「……」 「どうしたんです、社長」 「いや……手前雇ったんだなって思ってよ」 「あぁ成程。彼女の事ですか。……そうですね、お陰様で最近カフェに来るお客さんが増えてきたんで自分一人で切り盛りするのが大変になってきたんですよ。一人でもいたら少しは楽になれると思って」 「ほぉん。それにしても綺麗な奴だな」 「ハハハ、ナンパは止してくださいよ」 「しねぇよドロッチェ。安心しやがれ」  カフェの店主──ドロッチェと軽口を交わした後、今朝の新聞を広げた。 「? 何ですか、ソレ」 「最近噂になってるヤツだよ。古代機械が発掘されたとか歯車がどうとか」 「あぁ成程、ソレで……。買い物に出かけるとよく聞くんですよね。なんでも三つあって、全て見つけたヒトに百万ポイントスターをくれるらしい、と」 「手前も興味あるか?」 ケラケラと笑いながら新聞の記事を指す。やがてハンバーグとパンがやってきたので新聞をたたみカバンの中に入れた。 「はい。お待たせしました、本日のランチセットとパン大盛りです」 「サンキュー。……えーっと……」 「彼女はドロシア。自分で言うのもなんですが最近お客さんが沢山来てくれて一人だと限界があったんですよ。試しにバイト募集の紙を貼ったら「働きたい」って来てくれたんです」 「ここに来たばかりというのもあって、お金もそんなに無くて。働き口を探していたら偶然その貼紙を見つけたのでダメ元で尋ねたら雇ってくれたんです。店長には感謝してますわ」  よろしくお願いします、と店員──ドロシアは一礼。社長はパンを持ってない手をヒラヒラさせて挨拶代わりとした。 「所で社長、この前飛行機レースをしたそうで。友達から聞きましたよ」 「んぁ?」 「残念だったんですってね」 「ふ、フンッ! あの時は飛行機の調子が悪かっただけだ! ──それよりコレだ、コレ!」  などと言い訳をした後、デデデ社長は再び新聞を取り出し記事を指す。  ──なんでも発掘された古代機械は願いを叶える不思議な機械だそうだ。ありとあらゆる願い……、それはきっと「美味しいご馳走を食べたい」や「お金持ちになりたい」といったものなのだろう。  願いは個人個人で違う。この機械は皆の願いを叶え、幸せを齎すだろうと、新聞に載っている歯車に賞金をかけたある富豪がそう語った。 「その例の歯車が発掘された古代機械を動かすのに必要なパーツ、ですか」 「そうだ。特別な歯車だからな、多額の賞金をかけてでも手に入れたいんだろうさ」 「社長は探すんです?」 「まぁな。百万ポイントスターだぞ? 工場の建て替えも出来るし、なんなら手前の店ごと買い取る事も出来るんだぜ」 「ハハハ。楽しみにしてますよ。社長は頭もいいし、度胸もある。歯車なんてあっという間に見つかりますとも」 そうお世辞を言えば分かりやすくニンマリとする。 お世辞だろうが矢張り褒められると嬉しくなるものだ。ランチを食べ終えたデデデ社長はご機嫌で店から去って行った。 「…………」 社長が出て行ったのを店内から見送るとドロッチェ達の目付きが変わる。 「……古代機械、か」 「中々面白そうな話だったわね。願いが叶うなら叶えてもらいたいわ。……どうする?」 クスクスと笑うドロシア。何処か楽しそうだ。 「──折角だ、こんな面白い話はそうそう無い。ここは一つのってみようか」 「それでこそ貴方ね。私もついて行くわ。機械が動く所、見てみたいもの」  やがてカランカランとベルが鳴り客がやって来た。二人は先程のような店員の顔をして迎える。 「いらっしゃいませ!」 「どうぞお好きな席へ」 この『かぜのまち』には、彼等の正体を知る者はいない。
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