序-一方、他の街にて:その2-

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序-一方、他の街にて:その2-

 【ダイヤモンド・タウン】から南に行くと小さな街がある。辺りを見渡すとボロい家が所狭しと並んでおり、更に手入れの行き届いていない道がある。  ──この街の名は【ベリル・タウン】。そして彼……旅人がいるこの町は『がらくたのまち』と呼ばれている。繁栄している華やかな町がある反面、このような町もある。この『がらくたのまち』に住むヒトビトは明日を生きるのに精一杯であった。薄暗くなった今、家からはほんのり明かりが灯っている。 「『主人殿』」 「どうしたッチュかツムジ」  その旅人が連れているのは黄色いチューリンで、名をツムジというらしい。ツムジは自分の主人である黄色のネズミに話しかけた。主人は赤いスカーフにサングラス、そしてここいらじゃ見かけない、変わった服を着ている。その服が珍しいのか、はたまた旅人がここに来る事自体が珍しいのかは不明だが、『がらくたのまち』に住んでいるヒトビトは皆、旅人を見ていた。 「『……今まで様々な街を旅してきたが、この様な町があるとは。早く抜けて【ダイヤモンド・タウン】に向かうで御座る』」 「そうッチュね。このまちから──」 「あ、あの……」 「『! 何奴!』」 「ヒェッ!」  背後から話しかけられ、ツムジは鋭い目つきで相手を睨む。彼が何て言っているかは相手に伝わらないが威嚇されている事は分かったようで、ビクリと驚いた顔をする。 「え、えぇっと、突然話しかけてごめんなさい。その……【ダイヤモンド・タウン】と聞いたもので……。そこに向かうんですの?」 「……そうッチュけど。それがどうした?」 「あの、その……。──アタシも一緒に連れて行ってくれませんか? アタシ、あそこで見つかった古代機械にお願いをしたいんですの! 何でも願いを叶えてくれる、古代機械に。貴方達もそれが目当てなのでしょう?」 「『はぁ?』」 「こだいきかい? 何チュかソレは」 「え?」  目を丸くし、ポカンとする少女。ボロボロの三角帽子が特徴だった。彼女はてっきり【ダイヤモンド・タウン】の鉱山で発掘された機械を目的に街へと向かうものだと思っていたようで、彼等の反応は予想外だったのだ。  噂すら知らなさそうな彼等に彼女は新聞の記事を見せた。家から灯された仄かな明かりを頼りに記事を読んでいく。 「……成程。そういう事か」 「え、えぇ。【ダイヤモンド・タウン】はその噂でもちきりだと、新聞にあったのです。だから旅人さんもソレが目当てだとばかり……。突然話しかけてすみませんでした」 「『何でも願いを叶える古代機械、で御座るか』」 ツムジは自分の主人を見る。少し興味が出てきた様だ。 「──アンタは」 「はい?」 「その古代機械とやらに何を願うんチュか」 「アタシは……」 目を伏せ、やがてこう言った。 ──当たり前の生活がしたい、と。 「このまちのヒト達は皆、家や仕事を無くしたヒトばかりで、お金が無いのです。今ある家も廃材置き場で捨てられていた材料をかき集めて造ったものですの。このまちは他の地区から引き離されたような、そんな気がしてるのです。この街のお偉いさんはアタシ達が住む『がらくたのまち』なんて見もしない。助けてくれない。……それなら、ダメ元でいいからその機械にお願いして助けてもらいたい。『願いを叶えてくれる』というのが本当なら、尚更……」 泣きそうになるのを堪えながら彼女は現状を訴える。旅人に訴えた所で何にも変わりやしないのだろうが、それでも現状を訴えたかった。そして。 ──現状を打破するキッカケが欲しかった。 ──共についてきてくれる仲間が欲しかった。 ──このまちに住む皆は、何も変えられないのだと諦めていた。 「…………」 「この噂を聞いた時、アタシは現状を変えられるチャンスだと思ったんですの。発掘された古代機械が動いて、本当に願いを叶えてくれるのなら今しかないのだと。……そこで貴方達がやってきた。【ダイヤモンド・タウン】って言ってたから、貴方達もその古代機械が目当てではないかと」 「『…………』」 「……なんて、貴方に言っても意味はないのに。引き止めてしまって申し訳ありませんわ旅人さん。ここから真っ直ぐ行くと門が見えますの、そこを通り『きらめきのまち』に行って機関車で──」 「アンタ」 「!」 旅人は彼女を呼ぶ。【ダイヤモンド・タウン】に行く為の道案内をしていた彼女の声がピタリと止む。彼女は旅人の方に視線をやった。 「名前は何て言うんだ」 「アタシですの? アタシはペインシアって言いますの。……えっと、貴方達は?」 「スピン。隣のコイツはツムジさね」  パチクリと目を瞬きさせた。──風は相も変わらず町に吹き、道端のゴミをコロコロと転がしていく。この時期には珍しい、優しい風だった。 「アンタの言う通り、拙──いや、今のオイラは旅人ッチュ。【ダイヤモンド・タウン】に向かおうとしたのは仕事を探しに行く所なんだ」 「仕事、ですか」 「あぁ。……オイラは謂わば傭兵さ。金さえあればそれでいい」 「お金……」  彼女──ペインシアはチラリと旅人の全身を見る。腰の方には小刀らしき物が携えられていた。傭兵、という職業をよく分かっていないがお金さえあれば動いてくれるものだと言う事は何となく理解は出来た。彼女は財布を取り出してこう言った。 「……旅人さん──いえ、ようへいさん」 「何チュか」 「まだお仕事見つかってないのなら、アタシの"ようへい"になってほしいんですの! お金なら……えっと、五百ポイントスターあります。コツコツと貯めておいたんですの!」 「……おや。オイラを雇うのか」 「『む、五百ポイントスターで御座るか。如何するで御座るか主人殿』」  正直言って微妙だな、と言いたげなツムジ。しかし自分は主人であるスピンに従うまで。 「……一ヶ月」 「え?」 「その値段ならオイラとの契約は一ヶ月間だッチュ。契約解除は一ヶ月過ぎるか、アンタの目的が達成されるかのどちらかだ」 「……えぇ。分かりましたの」 「決まりッチュね。……契約中はアンタの命を守るさ」  財布から五百ポイントスターを出し旅人──スピンとツムジに渡した。彼もまた貰ったポイントスターを自身の懐に入れる。 「この時間帯は機関車も走っていませんし、明日の朝に出発しましょう」  外は暗く星が見えている。栄えている『きらめきのまち』では見えない、美しい星々が自分達を見守っているようだ。
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