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ハッと目を覚ました私は、ここが何処だかすぐに分からなかった。
茶色い木造の天井と壁。建物の中と言うことは分かったけど、明かりのない薄暗い室内は窓がない。ただ扉はあって、開いた観音扉から陽の光が入り込んでいた。
「……ここ、何処?」
むくりと起き上がって、ようやく何処か分かった。ここは島に唯一ある神社。その神社の拝殿内。全国でも珍しい”蛙”の神様が祀られていて、拝殿内の奥にはそれを置いた祭壇がある。
ただ普段拝殿内は閉ざされていて、中に入ることが出来ない。それなのにどうして拝殿内だと分かったのかと言うと、ここの宮司さんとは仲良しで、何回か見せてもらったことがあったからだった。
けれど――。
「何でうち、こんな所で寝てたん?」
神社に来た理由も、ましてや普段開いていない拝殿内で寝た記憶もない。
そしてふと、涙が流れていることに気付く。
……怖い夢でも見てたんやろか?
状況を考えていると、人の気配がした。
「やっと見付けた。探したんだぞ」
「京介」
やって来たのは3歳年上の男性。ほっと安心したような呆れたような表情を浮かべ、はぁとひと息吐く。目に掛かる黒い前髪を掻き上げ、露になった額は汗が滲んでいた。
「なぁ、何でうちここにおるん?」
「はぁ? 知るか。それよりおばさんが探してる。帰るぞ」
訝しく眉を寄せられて、そりゃ京介が知る訳ないわなと、立ち上がった時だった。
「いたっ!」
突然右足首に激痛が走る。とても立っていられなくて、その場にしゃがみ込んだ。
「どうした?」
「何か右足痛いねん」
押さえる足首を見て、んー? と京介が呟く。
「見た感じは何にもなってないけどな」
しばらくじっとしていれば、痛さがマシになってきた。恐る恐る立ち上がると、嘘のように痛みがなくなっていた。
「あれ? 大丈夫やわ。何やったんやろ?」
「――――――チリーン――――――」
何処からともなく、鈴の音が聴こえた。辺りを見渡してみるけど、鈴はおろか、鳴るような物などない。仮に京介が鳴らしたとしても、そんな近くでと言うよりかは、遠い所、頭の奥で響いたような聴こえ方だった。
「……今、鈴の音聴こえへんかった?」
「鈴? 聴こえてないけど。それより急ぐぞ」
「う、うん」
疑問を抱えたまま拝殿内から出て、長い石階段を下っていった。
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