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神社は長い石階段を上った先にある、木々に囲まれた山の上にあった。下りて道が見えてくると、一台だけ自転車が止まっていた。
「それより、ここまでどうやって来たんだ?」
自転車のスタンドを上げ、京介が尋ねた。
家からここまでは自転車で30分掛かる。だから徒歩で来るなんてことは滅多にない。
「え? うち、どうやって来たん?」
「は? さっきから意味分からんことばっか言ってるけど、熱でもあるのか?」
怪訝な顔をした京介が近付いてきて、額に手が当てられた。熱の篭った手の平の感触にどきりとしてしまう。
「熱はないみたいだけど。おかしなもんでも食ったか?」
「いやいや。普通に昼は素麺しか食べてへんから」
「……まぁいいや。とりあえず俺の後ろに乗って」
京介が乗る後ろ、リアキャリアにゆっくりとお尻を下ろす。横向きに乗ると、自転車が動き出した。
「ちょっと飛ばすから、捕まってろよ」
「うん」
そっと手を伸ばし腰部分の服を掴む。切る風は清涼を感じるけど、漕ぐ京介の広い背中は汗ばんでいた。きっとあちこち探し回ってくれていたんだろう。
そう思たら、嬉しいな……。
愛しさから背中に頭を預けたくなる。でもそれは恥ずかしくて出来なかった。
海沿いの対向車も来ない一本道をぐんぐん進んでいく。やがて集落が見えてきて、その中の一軒の前で自転車が止まった。
「ありがとー」
「おう」
「こら、志帆! この忙しい日に何処行ってたんよ!」
庭が見える居間の窓を開けて、大声を出すのは母親だった。眉を釣り上げる顔は随分お怒りだ。
「はよ中入って手伝い! 京介君ありがとうやで」
「いえ」
他所向き声の母親にはーいと答えて、家の中に入る。玄関にはたくさんの靴が並び、正面に見える台所には何人もの女の人の姿があった。
「志帆ちゃん、おかえり」
「ただいまー」
隣の家のおばちゃんが、料理を載せたお盆を持って廊下を走る。次に若奥さんが飲み物を持って、客間に向かっていく。
近所に住む女の人達が私の家に集まり、何人分もの夕食の用意をする。それを男の人達が食べて飲む。
島は年に一度の大きな祭りを控え、その準備に大忙しだった。
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