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 話が終わって京介の口が閉ざされる。黙って思い詰めた顔をして、海を見つめている。  話をしてくれことが嬉しいと思うよりも、今の私は悲しい気持ちの方が勝っていた。  ずっと、苦しかったんやろな。  ううん。今も苦しんでる。  辛くて泣きたい程の気持ちを抱えて、それでも打開策を求めて島に来たんやな……。  力になりたい。  この人の力になりたい。  うちは絵を描かへんから詳しいことは分からんけど……。  でもこれだけは言える。  京介の描く絵が好き。  京介の絵が好き。  笑って欲しい。  楽しんで絵を描いてもらいたい――。  波の音しか聞こえない静けさを、パッと立ち上がって破った。 「一緒に描こ」 「は?」 「ちょっと借りんで」  裸足で砂浜に下り、京介の鞄を持って戻ってくる。スケッチブックの真っ白なページを出して、水色の色鉛筆を手に持った。 「まずはー海やな。水色でこう……」  下半分をシャカシャカと水色で塗っていく。隣で見る京介が見兼ねて口を挟んできた。 「そんなべた塗りで海に見える訳ないだろ」 「じゃあどうするん?」 「青とか違う色を重ね塗りしてさ」  私が塗った水色に色を足していく。呆れながらも手本を見せるように描いてくれる。 「これで消しゴムを使って」  塗ったところを部分部分消していくと、太陽が当たったような光る波が表現された。 「わ、凄い! キラキラした感じになった!」 「後は砂浜でも描いたら海って分かるだろ」 「せやな。そしたらうちは太陽描こかな」  赤の色鉛筆に持ち替え、丸を描いて回りに線を引く。 「何だ、その幼稚な太陽」 「え? 太陽ってこんな風に描かれるやん」 「こんなのただの絵文字だろ」 「何やて?」  ほな描いてよと軽口を言いながら、京介はささっと砂浜を描き終えた。急遽、雑ながら合作が完成し、腕を伸ばしてスケッチブックを持った。 「かんせー! わぁ、凄いなぁ、海やなぁ」  京介が手を加えた海は、紛れもなくキラキラ光る海。指を付ければ入れそうなくらいリアルさがある。砂浜も細かい砂の感じが見て取れて、どうやって描いたのか、私には見ても分からない。そんな景色を台無しにする空に浮かぶ太陽。そこだけ違う景色の出来に、ぷっと吹き出した。 「なぁ、この絵ももろていい?」 「別にいいけど。こんなんでいいのか?」 「うん! これがええねん」  にっこり笑って答えると、1枚破って渡される。 「物好きだな」 「夏祭りのポスターの時も思たけど、うち京介の絵好きやから」  もらった絵を見つめる。京介の絵をもらえたことと、合作と言うのが嬉しくて、いつまでもええなええなと見つめてしまう。  そんな私を変わった奴だなと、京介がふっと笑った。
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