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「京介」 「ん?」 「確かに評価とか賞って大事やと思うけど、やっぱ楽しんで、描きたいものを描きたいように描くんが一番ええんちゃうかな? あの海が青に見えるんやったら青でええし、黄色に見えるんやったら黄色でええと思うねん」  ぽつりと自分の想いを伝える。京介は驚いたような目をして、こっちを見ていた。 「うちは京介が描く絵なら、どんなんでも凄いなって思うんやけど。でもやっぱ難しい顔して苦しそうに描いてる京介を見るんは、こっちも辛いって言うか」  苦笑を浮かべて、にこりと笑う。 「うち、京介のファンやから。だから――」 「なぁ」 「何?」  途中で言葉が遮られ、ん? と首を傾げる。 「今描きたいと思うものを描くから、付き合って」 「もちろん! 何したらええ?」  前向きな発言に嬉しくなって、何でもするでな気持ちになる。でも次の京介の言葉に、訝しく目を細めた。 「モデルして」 「は?」 「そんな難しく考えんな。そうだな……海に遊んで来て」 「ひとりで?」 「ひとりで」  即答され、困惑しながらも立ち上がる。  ……ひとり海に遊んでて、何したらええねん。  しかもモデルとか言われると気になって、動きがぎこちなくなる。波際まで来たのはいいものの、何しよ……? とその場で固まってしまう。  そんな私にはお構いなしに、京介は鉛筆を持ってスケッチブックに何かを描き始めた。  ――最初こそどうしたらいいのか分からなかったけど、だんだんとひとりの世界に入ることが出来た。こっちを見る京介の目も気にならなくなって、貝殻やシーグラスを見付けては、綺麗やなぁと見つめる。  砂浜に文字を書いたり波打ち際で遊んでいると、志帆と名前を呼ばれた。 「もういいよ。ありがとう」 「モデルさせたんやから、可愛く描いてくれたんやろな?」  思ってもない軽口を言って立ち上がる。京介の隣に座ると、スケッチブックが渡された。
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