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 そこには海をバックに、笑顔の私が描かれていた。嬉しそうに貝殻を持って、楽しんでいるのが一目で分かる。  描かれたのが自分だと思うと恥ずかしいけど、絵の上手さに見とれる。鉛筆で描かれたはずなのに、見ている内に海や空の色が浮かんでくる。そんな錯覚を抱きながら、目を輝かせた。 「ヤバ! やっぱめっちゃ――」  上手やなぁ。  感想が全て口から出る前に、京介に抱き締められていた。  突然のことに理解が追い付かない。何が起こったのか分からない。  やがて至近距離に京介の頭があることが分かって、心臓が破裂しそうなくらいにバクバクと音が鳴り始めた。 「志帆。ありがとう」 「な、ななな何が?」  すぐ耳元で低く落ち着いた声音が聞こえる。それが訳が分からなくて、抱き締められている実感が湧いてきて、緊張でうまく口が回らない。 「ちょっと思い出した。あの頃の絵を描くことの楽しさ。いつの間にか義務になってたんだな」 「義務?」 「うん。絵を描くのは自分の為でもあって、誰かの為でもあるってこと。そんな当たり前のことも忘れて、描かなきゃいけない、やらなきゃいけないってなってた」  ぎゅっと力が込められる。背中に回る腕の熱が強くなって、更に私の緊張が増す。 「志帆」 「……何?」 「志帆のことが好きだ」 「え…………?」 「お節介でうるさくて壊滅的に絵はヘタクソだけど、優しくて明るい志帆にいつも元気をもらってた。寄り添ってくれてありがとう」  ――心臓が止まるかと思った。  夢かと思った。  一瞬聞き間違えたのかと。一瞬言葉の意味が理解出来なくなって、思考が停止した。  けれど言われた言葉が何度も頭の中を巡った。噛み締めるように何度も反芻している内に、現実を理解した。  嬉しい。  そんな感情しか出てこなくて、嬉しいでいっぱいになった。
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